(社説)原作と脚色 ドラマの舞台裏で何が

 日本テレビが放送した連続ドラマの原作を手がけていた漫画家の芦原妃名子さんが亡くなった。自ら死を選んだ可能性が高いとみられている。理由は定かでないが、経緯をみると見過ごせない事態だ。

 このドラマでは、脚本の一部を芦原さんが自ら書いていた。脚本家がSNSでこれに不満をにじませたところ、芦原さんもウェブ上に投稿。事前に約束した条件に合わない脚本が提示されるなどしたため、自分で書くことを余儀なくされた事情を説明した。

 このやりとりが大きな関心を集め、批判や議論が渦巻くさなかに芦原さんは帰らぬ人となった。日ごろ何げなく楽しんでいるドラマの舞台裏で一体なにが起きているのか。そう驚いた人も多いだろう。

 日テレは、最終的に許諾を得た脚本で放送したと説明し、版元の小学館も、芦原さんの要望を忠実に局側に伝えたとコメントしている。結果的には芦原さんの意向を無視した作品が世に出たわけではないのかもしれない。

 ただ、そうだとしても、生前の投稿をみるかぎり、ドラマ化に際して芦原さんが相当に神経をすり減らしていた様子がうかがえる。

 原作を利用する映像制作の現場で、原作者は正当な扱いを受けているのか。出版社との力関係のなかで芦原さんが無理を強いられることはなかったのか。こうした疑問が浮かぶが、日テレや小学館からまだ納得のいく説明はない。

 すべての映像作品が常に原作に忠実である必要はもちろんないだろう。原作者によって、考え方はさまざまに異なるからだ。

 大切なのは、制作にあたり関係者同士が丁寧なコミュニケーションをとることだが、実態はどうだったのか。脚本家はおととい、芦原さんの投稿内容は「初めて聞くことばかり」だったとつづっており、謎が深まっている。

 原作者や脚本家といった個人だけがネット上で発言し、肝心の企業が表に出て十分な説明をしない構図は異様に映る。無用の臆測や個人攻撃を防ぐためにも、日テレと小学館は視聴者や読者の疑問に答える必要がある。

 放送終了後も配信などで利益を出せるため、ドラマの制作本数は増加傾向が続いてきた。本の宣伝効果などを期待する出版社とテレビ局がビジネスで手を結ぶなか、構造的なひずみが生じている可能性も十分にあるだろう。

 両社はこうした観点からもていねいな検証を行い、その結果を公表するべきだ。業界全体で省みるための契機にしなければならない…

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【春トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら

  • commentatorHeader
    常見陽平
    (千葉商科大学准教授・働き方評論家)
    2024年2月10日11時43分 投稿
    【視点】

    ■出版社、テレビ局は「里親」の役割を果たしたのか?  「キャラクターは版権元様の大事なお子さん。里親としてしっかり育てます」バンダイ時代の尊敬する先輩の一言である。キャラクターを商品化する「キャラクターマーチャンダイジング」が同社のビジネ

    …続きを読む