(社説)公安捜査の暴走 なぜまかり通ったのか

 無実の人をあえて罪に落とすような捜査が、なぜまかり通ったのか。第三者による検証をただちに始めるべきだ。

 軍事転用が可能な機器を不正に輸出したとして「大川原化工機」の大川原正明社長ら幹部3人が逮捕、起訴され、のちに取り消された事件で、東京地裁はきのう、警視庁公安部と東京地検の捜査の違法性を認め、国と東京都に約1億6千万円の賠償を命じた。

 判決は、公安部が合理的な根拠もなく逮捕し、担当検察官も必要な捜査を尽くさずに勾留を請求、起訴したと断じた。公安部の取り調べでは、本人に誤解させて意図とは違う書面に署名させたり、本人が言っていないことを書面に記載したりしたと認めた。

 捜査側の描いた構図に合わせて証拠をねじ曲げる、決して許されない行為だ。

 刑事事件で無罪が確定しても、逮捕、勾留請求などが違法となるのは合理的な根拠を欠く場合に限られる。判決はその欠落ぶりを重ねて指摘しており、今回の捜査の度を超えたずさんさがうかがえる。

 問題とされた機器は食品加工などに使われる。国際枠組みによる輸出管理の対象だが、経済産業省の省令にはあいまいさがあり、地検は起訴の1年4カ月後、公判目前になって「規制対象との立証が困難」として取り消した。

 暴走とも言える捜査はなぜ起き、なぜ止められなかったのか。法廷では現役警部補が「まあ、捏造(ねつぞう)ですね」などと証言。捜査報告書に発言が載った研究者が内容を否定する場面もあり、単純なミスとは考えられない。検察も含め組織内の意思決定過程と責任の所在をつぶさに検証しない限り、再発は防げないだろう。

 経済安全保障が強調されるなか、警察庁は21年版警察白書に、大量破壊兵器関連の不正輸出事件の事例として立件について紹介。公表直後に起訴が取り消されたが、今年7月まで記載したままだった。

 誤った捜査は多くのものを奪った。3人の保釈請求は何度も却下され、社長らの勾留は11カ月近くに及んだ。元顧問の男性はがんの進行が分かっても保釈を認められず、入院を経て、起訴取り消しの前に死去した。

 勾留を許可し続けた裁判所の判断も、問い直されるべきだ。容疑を否認、黙秘する限り、身柄拘束が続くことが多い現状は「人質司法」と呼ばれ、国際的にも批判を受けている。自由を求める人から、事実ではない「自白」を引き出すことにもなりかねない。

 「人質司法のもとでは冤罪(えんざい)はなくならない」。大川原さんの言葉はあまりに重い…

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