(社説)基金の乱用 無駄の温床にメスを

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 政府の財政資金を使う「基金」の乱用に、歯止めがかからない。ずさんな実態が次々判明しているのに、漫然と巨費が投じられている。設置要件や運用ルールを厳格化して対象を絞り、監視や評価の体制強化を急ぐべきだ。

 基金は、複数年度にわたって支出を見込む事業の予算を省庁の外郭団体などに積んでおく仕組みだ。従来は学術や農業支援などで用いられ、予算は毎年1兆円前後だった。

 ところが、コロナ禍をきっかけに規模も対象も広がり、20年度以降、数兆~10兆円規模に膨らんだ。残高も昨年度末に16・6兆円に達し、3年間で7倍の急増ぶりだ。

 憲法は、会計年度ごとに予算を作成し、国会での審議と議決を経ることを定める。その趣旨からすれば、基金は本来、各年度の必要額が見通せず、機動的な支出が必要な事業などに限るべきだ。

 確かに、コロナ禍当初のような未曽有の事態には、基金化が有用な場面もあっただろう。だが、その後も脱炭素化や経済安全保障など政権が重視する分野に対象が広がり、際限なく肥大化しつつあるのは見過ごせない。

 以前から、いったん積まれた基金は国会や省庁のチェックが働きにくくなる弊害が指摘されてきた。無駄に使われたり、逆に資金が塩漬けにされたりといった非効率の温床になりやすく、実際に数多くの問題が起きている。

 特に驚くのは、大型基金を扱う外郭団体などが、補助金の審査といった中核業務をさらに民間企業に委託する事例が最近相次いでいることだ。団体側にノウハウや人手があるかを十分考慮せずに、予算確保に走った結果だろう。公金を扱う意識の希薄さは、目を覆うばかりだ。

 批判の高まりを受け、岸田首相は今週、基金全体の見直し方針を年内にまとめるよう指示した。基金ごとに具体的な期限や成果目標を設け、予算をつけるのは3年分程度にとどめる、といった方策が検討されている。遅きに失したとはいえ、徹底して問題を洗い出し、厳格な共通ルールを整えるのが当然だ。

 だが一方で、政権は「予算の単年度主義の弊害是正」を大義名分に、基金の積極的な活用に拍車を掛け続けている。今年度補正予算案にも4兆円余りを計上した。半導体産業の支援に2兆円を追加するなど破格の手厚さだ。

 「緊要な経費」を手当てするはずの補正に乗じて、十分な審議を経ずに巨費を積むようでは、「基金見直し」も形ばかりと疑わざるをえない。基本姿勢から改めるべきだ。

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