(社説)日銀政策修正 出口に備える議論急げ

社説

 日本銀行が、7月に続いて金融緩和手法の柔軟化を決めた。内外の経済や金融市場の変動に応じ、臨機に動ける態勢を整えることは望ましい。物価見通しの上振れも続いており、大規模緩和の「出口」に向かう場合の手順や影響について議論を深め、国民に説明する必要がある。

 日銀は7月に、1%を上限に長期金利の上昇を認めた。今回、この上限を「目途」に弱め、さらに柔軟に運用するという。3カ月で再修正に至った理由について、植田和男総裁は記者会見で「米国の長期金利の上昇の程度が予想以上だったことが一番大きかった」と説明した。

 消費者物価の見通しは23、24年度とも2・8%に上方修正した。25年度も1・7%に引き上げた。ただ、日銀が目標にする賃金上昇を伴う「2%上昇」の持続的、安定的な実現は見通せていないとの判断は変えず、大規模緩和の大枠は据え置いた。

 確かに、物価高の背景は、資源など輸入品の高騰とその価格転嫁が長引いている影響が大きい。賃金と物価がともに上がる好循環の実現は、カギになる来年の春闘の行方も含め、なお予断を許さない。物価の上振れだけでなく、下振れへの目配りも引き続き必要な局面ではある。

 とはいえ、日銀の今回の見通しが実現すれば、物価上昇は昨年度の実績を含めて目標の2%を3年連続で大きく超える。大規模緩和からの「出口」への可能性の高まりが意識されるなかで、情勢の変化を見極めつつ機敏に対応する必要性も増すはずだ。

 今回の長期金利操作の柔軟化は、そうした状況を視野に入れた備えとしても理解できる。だが、誘導目標を「ゼロ%程度」にしたままで、1%超えも認めるという運用は分かりにくい。日銀の裁量も拡大しそうだ。運用の透明性確保と丁寧な説明を一段と心がけなければならない。

 同時に、大規模緩和からの出口に向かう際の具体策についても、道筋を明らかにしていくべきだ。

 政策修正のあり方に加え、日銀の財務や金融市場、国民生活にどんな影響が予想されるのか。黒田東彦前総裁時代に「時期尚早」として封印されていたこともあり、議論や説明が不足していた。

 植田総裁は9月末に、大規模緩和の縮小局面での中央銀行財務への影響を整理する講演をした。その際、「『出口』には距離がある現時点だからこそ、客観的に議論するのに適したタイミング」と語っている。時機を逸さずに、必要な議論を急いでほしい…

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