つながるメディアへ、課題は 朝日新聞あすへの報道審議会

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 新聞は字ばかりで文章が長い。デジタルでは何が重要なのかわかりにくい――。どんなコンテンツをどう届ければ、より多くの読者・ユーザーとつながれるのか。「あすへの報道審議会」を9月26日に開き、パブリックエディターと若手記者たちが話し合いました。

 <パブリックエディター>

 ◇今村久美さん 認定NPO法人カタリバ代表理事。対話を通じた公教育改革を実践(1979年生まれ)

 ◇佐藤信(しん)さん 東京都立大准教授。専門は現代日本政治、日本政治外交史(1988年生まれ)

 ◇藤村厚夫さん スマートニュース社フェロー。IT系の編集者や経営者を経験(1954年生まれ)

 ◇岡本峰子 朝日新聞社員。編集局長補佐、仙台総局長を経験(1967年生まれ)

 ■字ばかりの古い型壊して、音声・動画でも 藤村PE/文脈・背景入れ、知るべきこと「縮約」して 佐藤PE/SNSから記事へ、読みたくなる動線を 今村PE

 佐藤信(しん)PE 朝日新聞のニュースコンテンツは読者が毎日しっかり読んでいることを前提にして、情報強者を相手にしていると感じる。多くの読者はそうではない。まして若者をはじめ、新聞や朝日新聞デジタルに触れたことのない人には選んでもらえない。「デジタルゆえのわかりにくさ」も意識すべきだ。紙面はぱっと広げるだけでどんなニュースがあるか、扱いの大きさからどのニュースが重要かが分かるが、デジタルではどの記事が重要なのかわかりにくい。

 成田太昭・コンテンツ編成本部員 編集者として紙面やデジタルの記事に見出しをつけレイアウトをしている。この夏、朝デジのトップに「ニュースの要点」を新設した。「今日の重要なニュースはこれです」と三つのニュースを原則として約200字ずつに要約して伝える企画で、概要だけでなく、過去の経緯や言葉の意味合いも説明する。ですます調で、難しい専門用語は極力使わない。ふだんニュースを扱う我々は「当たり前」だと思ってニュースの背景を省きがちだが、多くの方がそれを知らないことも強く意識して編集している。

 藤村厚夫PE そういうチャレンジは重要だ。とにかく、わかりやすく伝えることが朝日新聞の最大の課題。文字ばかりの長い記事で説明しようとする古いフォーマットは時代に合わない。もっと箇条書きの要約や図表などで補い、より多くの人に理解してもらう戦略をとるべきだ。今までのスタイルを遠慮なく壊すぐらいの勢いで意識を変え、メールやSNS、ウェブ、紙、音声、動画の境界なくコンテンツを発出してはどうか。

 今村久美PE これだけ情報があふれて揺れ動く現在、学校の教科書が今のままで残るとは考えにくく、新聞のコンテンツがそれに代わりうるかもしれない。「教材」なら親も投資を惜しまない。その点でも難しさはクリアすべきだ。より理解を深めてもらうため、関連記事を参照できるリンクはもっとつけたほうがいい。

 海東英雄・PE事務局長 現場の記者は、わかりやすい記事を書くためにどんな点に気をつけているか。

 寺島笑花・長崎総局記者 長崎では「核兵器禁止条約」や「核不拡散条約」など原爆に絡む用語は当然のように使われている。赴任したてのころは勉強しながら書いていたが、取材を重ねるうちに慣れてしまい、丁寧な説明なしに書いてしまうことがある。最初に感じていた「何だっけ?」という感覚を忘れてはいけないと思う。

 杉山歩・東京経済部記者 わかりにくさの一因に背景の説明不足があるのではないか。不正会計の発覚から始まった混乱が8年続く東芝を取材しているが、この問題の何を重要だと思うのかと聞かれることがある。記者コラム「取材考記」で、相次ぐ課題にどう対応すべきかなど、どの企業も直面しうる問題をはらむからこそ取材するのだと説明したら、読者から報道の意義に共感できたというお便りをいただいた。

 佐藤PE 「ニュースの要点」に限らず、情報を「縮約」する重要性も意識すべきだ。情報が氾濫(はんらん)するインターネット時代、文脈や背景を織り込んだ上で、世の中の知るべきことをいかに手軽に伝えるか。「いちからわかる!」や朝デジの「そもそも解説」はいい企画だが、それでも難しいことが多い。

 野沢哲也・ゼネラルエディター補佐 難しくなりすぎるときもあれば、「読まれる」ことを意識しすぎるときもある。その間を振り子のように揺れ動いている。両極の間のどこかに我々のいるべき場所があり、「縮約」はその地点を探す手がかりとして有効に思える。

 藤村PE 長い記事が一律に悪いわけではない。重厚で読み応えのあるルポもある。そこでも読んでもらうための努力は必要だ。まず記者や編集者は発信前に、大きなディスプレーだけでなく、一度はスマートフォンで読むルールを徹底してはどうか。ただ、読者を呼び込もうとするあまり、オーバーな見出しや情緒的な見出しを付けるのはよくない。通りすがりの読者の満足感ではなく、定期かつ長期に読み続けてくれる読者に「サンキュー、朝日新聞!」と思ってもらえるような価値観を定着させるべきだ。

 野村周・ゼネラルエディター ご指摘いただいた課題を議論するだけで終わらせず、いかにスピード感をもって具体化させるか。危機感は強い。変わるべきところの取捨選択、変えてはいけないところの優先づけをしっかりやりたい。

 ■ユーザーと語らい集う場、記者の魅力重要に 岡本PE

 今村PE 新たな読者と出会うためのアプローチが弱い。SNS利用者の視点に立って検討すべきだ。例えば、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の朝日のアカウントでは見出しと短い動画が表示されるが、「朝日新聞デジタルの記事を読む」をクリックすると、急に字数の多い記事に飛ぶので、それ以上読むのをやめる読者もいると思う。ショート動画と記事の間に、もうワンクッション、要約記事をはさむなど動線を工夫する必要がある。自前主義でやろうとせず、SNSマーケティングを専門とする若い世代ともっと協業してはどうか。

 寺島 記者であることを明示してX(旧ツイッター)に「畑を借りてこういうものがとれました」といった身の回りの出来事も投稿している。3年前に入社するまで「新聞って遠いな」と感じていたので、朝日を全然知らない人に少しでも親近感を持ってもらい、記事に触れてほしいと思うからだ。

 岡本峰子PE 記者とユーザーの交流には、オンラインイベント「記者サロン」やネット音声配信「朝日新聞ポッドキャスト」のリスナーの集いなどがある。読者と記事を読んだり書いたりするイベントを開く総局もある。これらのチャンネルを生かすためにも記者個人の魅力は重要になる。

 藤村PE 組織として、記者一人ひとりの存在感を読者に直接伝えるべきだ。朝日の認知を高めるより記者の認知を高める方が意義がある。最近、米ニューヨーク・タイムズの幹部が記者のプロフィルをもっと売り込もうと社員に表明した、との報道がある。生成AI(人工知能)ではなく、経験ある記者が手間暇かけた情報に価値があるとの宣言だろう。朝日も各記者の過去記事や横顔を載せたページをもっと充実させ、読者に選んでもらう努力が必要だ。

 杉山 記者がふだん何を考え、どんな取材をしているかを見せていくことは大事だと思う。個人を前面に出すなら、記者の専門性をもっと高められるような制度もあればいい。

 野沢 話題ごとにできるコミュニティーのハブになるような記者がたくさん出るようにしたい。記者一人ひとりが雑誌の編集長のようになり、そこにファンが集う。そんなイメージだ。

 笹山大志・東京社会部記者 Xのアカウントは持っているが、炎上するリスクがあるので慎重に投稿している。あくまで記事で勝負し、権力をチェックするスクープを出し続けたい。でないと日本の民主主義が腐敗してしまう。

 岡本PE 権力監視はジャーナリズムの根幹。朝日新聞モニター(朝デジ会員約200人)へのアンケートでも、権力を監視して真実を追求する立場を維持しているのが朝日のよさだという声があった。

 今村PE フリーで働くジャーナリストの中には生活に苦労している人もいる。フェイクニュースがあふれる現状だからこそ、多くの記者を雇用し組織ジャーナリズムに取り組めること自体が強みだ。

 佐藤PE 将来、人びとが過去を振り返ろうとしたときに新聞は貴重な資料になる。この点は新興ウェブメディアと大きく違う。記者は自分たちが歴史を書き残しているという意識も持ってほしい。資料としても報道としても、情報の信憑(しんぴょう)性を下支えするのは一人ひとりの記者への信頼だ。記者は個人の魅力を読者に伝え、読者と信頼関係を築いてほしい。

 宮田喜好・執行役員編集担当 人びとがたどり着けない情報を掘り起こして表に出す。目の前にあるのに見えていない情報を見えるようにする。それが、よりよい明日へつながること、民主主義にも寄与することだと考えて、私たちは情報を発信し、記録に残している。しかし、今は書けば読んでもらえる、信頼してもらえるという時代ではない。一人でも多くの人にどう届けるのかも考え抜かないといけない。しっかりと向き合いたい。

 (司会は海東事務局長)

 ◆パブリックエディター(PE)

 読者から寄せられる声をもとに、本社編集部門に意見や要望を伝える役割を担う

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