(フォーラム)障がい・医ケア児、育て働く:1 当事者の声

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 障がい児や医療的ケア児を育てながら働く多くの親は、健常児の子育てとは違う様々な困難や悩みに直面しています。実態はあまり知られておらず、育児と仕事との両立は簡単ではありません。「私たちを置き去りにしないで」。当事者の親が声を上げ始めました。

 ■通院・登校付き添い・夜間ケア・18歳の壁… 親に大きな負担、仕事との両立厳しく

 7月にオンラインで開かれたセミナー「障がい児を育てながら働く 綱渡りの毎日」に、全国から約280人が参加した。

 障がい児を育てる親だけでなく、たんの吸引や人工呼吸器の使用など日常生活で医療的なケアが必要な子ども(医療的ケア児)を持つ親に、彼らを支える福祉・医療現場、企業労使の関係者らが加わった。子育てや仕事との両立に関する悩みを分かち合い、必要な支援策などを考えるセミナーの第1回で、「障がい児及び医療的ケア児を育てる親の会」が開いた。

 障がい児や医療的ケア児は、年齢を重ねてもひとりで外出や留守番ができるようになるとは限らない。子育てと仕事を両立する当事者の親5人が就労継続に向けた苦労など、体験談を語った。

 ダウン症の8歳の男の子を育てながら共同通信社で働く池田知世さんは「まだまだ見守りが必要ですが、就学後に利用できる保育サービスは限定的。息子が安心できる保育の確保に不安がある」と打ち明けた。発達障がいがある18歳の息子を育てる電機連合の河崎智文さんは「何度も退職が頭をよぎったが、職場の理解と、学校・医療・福祉が連携して息子を支援してもらうことで働き続けることができた」と語り、「ひとりで抱え込まないで」と呼びかけた。

 福祉サービスや治療にかかる費用の負担が重いのに、学校への送迎などに時間を割かれ、離職を余儀なくされる親が少なくない。脳性まひの8歳の男の子を育てるアエラ副編集長の深澤友紀さんは「登校の付き添いは夫と交代、下校の付き添いは父と交代でしています。療育やリハビリ、通院などが多い時は年に約130回あり、週に2~3回は仕事を抜ける日々でした」。

 子どもが高校を卒業すると、放課後等デイサービス(放デイ)などが使えなくなり、就学時より支援が手薄になる「18歳の壁」に直面する親も多い。全国医療的ケア児者支援協議会で親の部会長を務める会社員の小林正幸さんは「家庭での医療的ケアは母親に集中している。頻繁な通院、夜間のケア、緊急の呼び出しへの備え、送迎や付き添いという課題への社会の理解が足りず、母親の就労は厳しい」と指摘した。

 「親の会」には現在、約140人が集う。3月には厚生労働省の「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会」のヒアリングを受け、同研究会が6月にまとめた報告書に、障がい児や医療的ケア児を育てる親に配慮した両立支援策の視点が初めて盛り込まれた。厚労省は今後、労働政策審議会の分科会で具体的な制度の見直しについて議論し、来年の通常国会に育児・介護休業法などの改正案の提出をめざす。佛教大学の田中智子教授(障がい者福祉)は「子どもをケアしながら、やりがいをもって働くことの難しさが見えてきた。社会の枠組みを変えていくために、当事者が経験を語ることが非常に重要だ」と話した。

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 セミナーは、朝日新聞社で働く社員8人が2016年に立ち上げた「親の会」が、朝日新聞厚生文化事業団と共催で企画した。第2回は10月21日に開催予定。第1回のアーカイブ動画は、同事業団の公式YouTubeチャンネルで見られる。(木村裕明)

 ■学校の呼び出し度々、息子に寄り添いたい、でも退職したら家計が

 「お母さん、息子さんが落ち着くまで、1週間くらい休ませたらどうですか」

 東京都の女性(48)は息子(10)が小学3年生の頃、学校から頻繁に呼び出された。多い時は3日連続ということもあった。

 1週間休んで落ち着くというものではないんです――。校長の言葉に言い返したい気持ちをグッとのみ込んだ。

 長男は多動傾向が強い自閉スペクトラム症(ASD)で、気持ちの切り替えが難しいという特性がある。突発的な行動も多くキレやすい。友だちとのコミュニケーションがうまくできずに、いらだちや不安が怒りで表現されてしまいがち。特に3年生の時の担任教諭や級友とは相性が合わず、一度怒ると手が付けられなくなった。

 女性はニュース映像制作会社に正社員として勤める。夫(51)は勤務時間が不規則なこともあり、子育てにあまり関与できず、女性がほぼ1人で担ってきた。

 息子の発達が気になり始めたのは2歳の頃。保育園の運動会で1人だけ全く別のダンスをしていた。ただ、その時は「マイペースな子だな」と思う程度だった。

 5歳ごろにASDとの診断を受けた。ベテラン保育士の勧めで受診したが、診断がないと会社を休みづらいという事情もあった。

 職場では息子の事情を共有している。息子が登校を渋るたびに遅刻したり、学校の呼び出しで早退したり……。上司や同僚も理解してくれているが、責任ある仕事を積極的に引き受けることにはためらいを覚えてしまう。

 息子を療育施設にも通わせているが、女性の仕事が休みの土日の枠は多くの希望者との取り合いだ。会社を辞めれば平日に通わせられるが、夫の稼ぎだけでは経済的に厳しくなる。辞めるという選択肢は現実的ではない。

 コロナ禍で広がった在宅勤務制度は、女性にとっての救いになった。学校の呼び出しにも即応できる。「休むことが減り、まっとうに仕事ができるようになった」

 在宅制度は今も使えているが、今後、出社を求められる頻度が増えたときに利用を考えているのが放デイだ。ただ、預かり時間が午後6時までという事業所が多く、延長などに柔軟に対応してもらえないと難しい。

 また、短時間勤務など自社の勤務配慮制度は、いまは子どもが小学3年生まで。年齢が上がっても使えるようになれば、平日に療育の時間を作れるかもしれない。

 「社員としての責務を果たしたい。一方で、息子の心にも寄り添いたい」。毎日、難しい両立の課題に頭を悩ませている。(根本理香)

 ■偏見心配、職場に言えず/フルタイムやめた/連休つらい

 アンケートは30代から50代までの回答が9割を超しました。結果はhttps://www.asahi.com/opinion/forum/184/で読むことができます。

 ●入園を断られ続けた とにかくあらゆる保育園に入園を断られて途方に暮れています。役所も力になってくれないし、どうしたらいいのかわかりません。(神奈川県、女性、30代)

 ●登園は週1から 人口4800人程度の自治体で1歳の医療的ケア児を育てています。保育園を希望しましたが、家庭保育の可能性はないのか念押しされました。体調不良を理由にようやく入園できましたが、登園は週1日で半日付き添いありからのスタート。働くめどが立ちません。都市部は体制が整ってきていますが、過疎地は余力がありません。(東京都、女性、40代)

 ●職場への報告ためらう 子どもは知的障がいを伴うASDです。育児は本当に大変。毎日、職場や保育園、近隣住民へ頭を下げて、配慮をお願いしています。ASDは、小さい時には親が心配しすぎと言われたり、しつけができていないと言われたりします。職場へ障がいのことを伝えると、障がい児に対しての偏見を受けそうで少しためらっています。(東京都、女性、40代)

 ●フルタイムをやめた 就学に伴い、長期休暇中の預け先がなくフルタイム勤務をやめました。放デイは午前10時~午後4時。学童保育で預かってくれるところもありますが、子どもには感覚過敏があって大人数が苦手。成人後も稼げる仕事に就けないため、親が働けるうちに働きたいのですが、預け先のシステムが整っていません。放デイも早朝から夜まで開けて頂けるシステムがあればもっと働けるのに……。(愛知県、女性、50代)

 ●預け先の時間が短い 預け先の放デイが短時間ということもあり、日中は働きたいけど働けず、深夜パートに出ています。医療的ケアが必要で朝は早起きのため、睡眠不足です。私が仕事の間は夫が世話をし、家族ともに疲弊しています。障がいのある子を育てていても働ける環境を整えてもらいたいです。(大阪府、女性、30代)

 ●妻だけに負担をかけたくない 知的障がいのある長男を含め3人の子に恵まれ、子育て奮闘中です。16年勤めた仕事は楽しかったのですが、妻だけに負担をかけたくなかったため、悩みながらも転職しました。大事なものはたくさんありますが、自分自身も大事。たまには息抜きして自分をいたわることが育児と仕事を両立するコツかもしれません。(滋賀県、男性、40代)

 ●母親しか受け付けない子 ASDで特別支援学級に在籍する小学5年の子どもがいます。本人のペースに合わせて遅刻・早退に付き添うことも多く、職場の理解を得つつパートで働いています。こだわりの強さから母親以外が付き添っての登下校は受け付けないため、正社員として働くことができません。周囲に理解してもらうのはとても難しいです。(埼玉県、その他、40代)

 ●連休がつらい フルタイムで働くシングルマザーです。子どもに重度障がいがあり、高校卒業後、日中は生活介護を利用しています。休日は生活介護を利用できないので預けられるところもなく、世の中の連休は私にとって、息が詰まるつらい時間です。もっとつらいのは、自分が病気や高齢になったときのことを考えることです。(福岡県、女性、50代)

 ◇withnewsでは、連載「障がい児・医療的ケア児を育てながら働く」を不定期で配信しています。

 ◇アンケート「AIに期待する? それとも心配?」「どうする地方都市の交通」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で募集しています。

 ◇来週10日は「障がい・医ケア児 育て働く:2」を掲載します。

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