武器輸出への厳しい自制を緩め、殺傷兵器にも道を開こうという岸田政権の意思が明白になった。平和国家の根幹として維持してきた原則を、国民的議論もないまま、なし崩しに空洞化させることは許されない。

 防衛装備移転三原則の運用指針の見直しを議論している自民、公明両党の作業チームに対し、政府が今後の方向性についての見解を示した。日本が英国、イタリアと組んで開発する次期戦闘機を念頭に、国際共同開発をした武器は「日本から第三国に対し、完成品や部品を、直接移転できるようにするのが望ましい」とされた。

 日本だけが制約を課していると、共同開発国から第三国への輸出の支障になり、ひいては共同開発の枠組み自体に影響を及ぼしかねないからだという。

 戦闘機は殺傷兵器そのものである。共同開発の合意を先行させ、その事情に合わないからと、後からルールを変えようというのは順序が違う。

 高い技術と多額の費用を要する戦闘機を単独でつくるのは困難で、いまや共同開発が世界の流れであるのは事実だ。ただ、日英伊の合意は昨年末に正式発表されたばかり。開発目標は2035年までで、具体的な協力のあり方については、なお議論が続いている。

 第三国にも売却することを前提にしているが、先方の使い方を制御するのは難しく、国際紛争を助長しないという保証はない。維持・管理のために長期的な関与も求められよう。拙速に方針を決めていいはずがない。

 現行の運用指針で輸出が認められる装備は、救難、輸送、警戒、監視、掃海の5類型に限られている。政府見解は、これらの活動や自分を守るために必要であれば、殺傷能力のある武器の搭載は可能とした。

 機雷を処理する砲や、不審船を停船させるための銃器などを想定したものだ。ほかにも、今後退役が増える航空自衛隊のF15戦闘機の中古エンジンを念頭に、「部品は武器に当たらない」との考えを示した。

 これらを足がかりに、輸出できる武器の範囲が際限なく広がる恐れは否定できない。共同開発した武器がいいなら、日本が単独開発したものも許されるという流れにならないか。

 与党の作業チームは7月初めに論点整理をまとめた後、秋以降に議論を再開する方針だった。前倒しで検討の加速を指示したのは、岸田首相である。結論を出す時期ははっきりしていないが、国会での徹底した議論や国民的な合意形成を欠いたまま、戦後の安保政策を大転換させた安保3文書改定のようなことが繰り返されてはならない。