(社説)自衛官候補生 発砲の動機 解明を急げ

社説

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 陸上自衛隊にこの春、入隊したばかりの18歳が、実弾射撃の訓練中に同僚に発砲し、2人が死亡、1人がけがをした。国の防衛のために所持が認められている武器をこのように使うことなど、決して許されない。動機の解明を急ぐとともに、教育訓練のあり方を再点検し、再発防止につなげねばならない。

 事件が起きたのは、岐阜市にある陸自の射撃場。自動小銃を撃った自衛官候補生は、殺人未遂容疑で現行犯逮捕されたが、詳しい事情はわかっていない。3人の被害者は、いずれも訓練を指導する隊員だったという。

 自衛官候補生とは、18歳以上33歳未満の男女が、約2~3年の任期制自衛官になる前に3カ月間、基礎的な教育訓練に専従するものだ。

 少子化の進行で自衛官の確保は難しくなっており、2018年度には採用上限年齢が26歳から32歳に引き上げられた。入隊して間もない若者が事件を起こした背景に何があったのか。高度な規律を維持するためにも、解明は不可欠だ。

 浜田靖一防衛相は記者団に対し、国民に心配をかけたことを陳謝し、警察の捜査への協力と原因究明、再発防止を指示したことを明らかにした。陸自トップの森下泰臣陸上幕僚長も「武器を扱う組織として決してあってはならない」と述べ、調査委員会を立ち上げるとした。

 自衛隊をめぐっては最近、重大な事故が相次いでいる。沖縄県宮古島周辺で4月、陸自のヘリコプターが墜落、九州南部の防衛警備を担う第8師団の師団長ら10人が死亡した。1月には山口県周防大島沖で、海上自衛隊護衛艦が座礁し、自力航行できなくなった。

 ヘリ墜落の原因はいまだわかっていないが、護衛艦の事故は人為的なミスだったことが防衛省の調査で判明している。

 ハラスメントの被害も後をたたない。パワハラによる隊員の自殺は、裁判になるなど、たびたび問題となっている。セクハラも深刻で、陸上自衛官だった五ノ井里奈さんが在職中に性暴力を受けた問題では、男性隊員5人が懲戒免職となった。

 安保3文書を改定し、防衛政策の大転換に踏み切った岸田政権は、防衛費の「倍増」を打ち出し、敵基地攻撃能力の保有など、装備の拡充に力を入れる。

 しかし、国の防衛の中核を担うのは、現場の自衛官らである。その組織が健全に機能しなければ、「防衛力の抜本的強化」という掛け声も空しくなる。一連の事件や事故を、足元を謙虚に見つめ直す契機にしなければならない。防衛省・自衛隊任せにすることなく、政権として取り組むべき課題である。

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