性同一性障害は「性別不合」、糖尿病は「ダイアベティス」――。病気の名前や、病名を含む学会名を変える動きが進んでいる。

 自認する性と生まれたときの戸籍上の性が違うトランスジェンダーの医療や権利などの課題を扱う「GID(性同一性障害)学会」の名前が、「日本GI(性別不合)学会」に変わると3月、発表された。

 GIDは性同一性障害の略称。ただ、トランスジェンダーであることは、疾病や障害ではなく、性の健康に関する「状態」である。そんな国際的な理解が広がり、世界保健機関(WHO)が2018年に公表した国際疾病分類(ICD)で、「障害」を意味するGIDはなくなり、GI(Gender Incongruence)に改められた。日本語訳は「性別不合」とする案が出ており、学会名もGIが使われる。

 理事長の中塚幹也・岡山大教授によると、「日本GI学会」の案を支持する意見が多かったが、新学会名は簡単には決まらず、「病気であるという印象をもたれる」「医療者以外の多様な人が関わっていくべき学会の印象が薄まる」などの意見が出たという。一方、専門家集団であることを示す必要もあった。

 中塚さんは、学会名の変更を機に「治療したら解決するものではなく、社会が変わらないと生きづらさは変わらないことを知ってもらいたい」と話す。

 18年に公表されたICDの最新版(ICD-11)は、1990年以来の改訂となった。世界中の国や地域の死亡や病気に関するデータを集め、分析・比較するための基準となる。厚生労働省による統計調査や医療機関での診療記録の管理はICDに基づいて行われる。分類には最新の医学的知見が反映されている。

 22年から5年間の移行期間が設けられ、各国が翻訳を進めている。厚労省は日本医学会などに計9万7563用語の和訳を依頼し、関連する各学会が病名変更などの必要がないか検討している。

差別や不快感を生まない言葉に

 日本精神神経学会は、精神疾患の病名変更を検討している。「障害」と訳されてきた「disorder」を「症」と訳すなど、患者の理解と納得が得られやすくし、差別意識や不快感を生まないことを重視する。

 精神疾患の中には、治療で治るものも多く、「障害」ではなく「症」と表記した方が、実態に近い場合がある。学会は、パニック障害をパニック症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を心的外傷後ストレス症などとする案を公表している。

 同学会の用語検討委員長の神庭重信・九州大名誉教授は「日本で『障害』は、『disability』の意味で理解されているが、精神疾患の分野では『disorder』を障害と訳してきた。そのことで、症状が固定して良くならない、不可逆なものという印象を与えて、精神疾患への偏見を助長している面があった」と話す。

 また、適応障害(Adjustment Disorder)は、ICD―11で、過度のストレス状況によって、過剰な心配や苦痛を生じる思考を反復してしまうとされる。これを「障害」と訳すことは、適応できない人に問題があるという誤解を生むとして、学会は「適応反応症」とする案を示している。

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