(社説)入管法の迷走 採決は国民への背信だ

社説

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 疑義が重なり、採決できる状況には到底ない。参院の存在意義が試される重大な局面だ。

 外国人の収容・送還のルールを変える出入国管理法改正案をめぐって、政府が不都合な事実を隠したり、事実と異なる説明をしたりしたことが、相次いで明らかになった。

 立憲が提出した法相の問責決議案は、与党と維新、国民民主などの反対できのう否決された。だが、法案の正当性は大きく揺らいでいる。さまざまな矛盾を追及せずに成立を許すことになれば国会の責任放棄で、国民の負託に背くことになる。

 先週、表面化したのが、大阪入管の常勤医師が1月、酒に酔って勤務していた問題だ。様子がおかしく呼気のアルコール検査で高い数値が検出された。被収容者への不適切な言動が、かねて指摘されていたという。

 一医師の問題ではない。1月以降、この医師は診療から外されているが、法務・入管当局はその事実を隠し「常勤医師がいる」と説明してきた。斎藤法相は4月、衆院で「(大阪入管も含め)新たに常勤医の確保に至った」「(医療態勢の)改革の効果が着実に表れている」などと答弁した。入管庁が同月、公表した文書も、常勤医師について「大阪に1人」と現状と違う記載をしている。

 ほぼ同じ内容の2年前の法案は、収容中のスリランカ出身の女性の死亡をきっかけに、入管の処遇への批判が高まり廃案になった。医療態勢は今回も重要な論点で、不祥事があれば率直に公表するのが筋だ。

 隠蔽(いんぺい)したことが事実と異なる答弁や説明をうみ、審議の正当性は深く傷つけられた。

 理解しがたいのは、こうした法務・入管当局の不誠実な姿勢を与党が容認し、法案をただちに採決するよう求めていることだ。政府との緊張関係をあまりにも欠いているのではないか。維新と国民民主も同調し、野党としての役割を忘れ去ったかのようだ。

 難民認定の2次審査に携わる民間の参与員が「申請者に難民はほとんどいない」と国会で発言したことを端緒に、難民認定の公正さにも疑念が向けられたが、審議は深まっていない。

 入管側が「難民申請の乱用」と判断した案件が、特定の参与員にまとめて審査されている運用もわかってきた。斎藤法相は参与員の発言を支持する文脈で「参与員が1年6カ月で500件の対面審査を行うことは可能」と述べたものの、その日の夜に「不可能」と正反対の内容に訂正した。政府側の迷走ぶりも極まっている。

 このまま進めたのでは、人々の納得はとても得られない。

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