停止要請、自治体は困惑 「利用者多く、突然止めるのは困難」 マイナで証明書=訂正・おわびあり

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 マイナンバーカードを使った住民票などのコンビニ交付サービスで誤交付が起きた問題は、政府がシステムを提供する富士通Japanにシステムの一時停止や再点検を要請する事態となった。このシステムを使う自治体は全国で200弱に上り、現場では戸惑う声が相次いだ。▼1面参照

 「(誤交付が相次いだ)横浜市で起こったようなことは、川崎市では起こらない」。川崎市の福田紀彦市長は9日の記者会見でこう話し、サービスの継続が重要だとの考え方を示した。

 川崎市ではマイナンバーカードを利用したコンビニ交付サービスで2日、別人の戸籍全部事項証明書が出力されるトラブルが発生。市の戸籍システムも、コンビニとデータを連携するシステムも、富士通Japanが運用している。

 市はサービスをいったん停止。システムの改修を終えたとして9日朝から再稼働させたばかりだった。福田市長は「わざわざ直ったものを止めてまでとは想定しにくい」と再度のサービス停止に否定的な見方を示した。

 計10件の誤交付があった横浜市は対応を検討中だ。誤交付を受けて3月27日午後からコンビニ交付サービスを一時停止した際には「いつ再開するのか」という問い合わせが複数、寄せられた。2日後にサービスを再開した後は問題なく稼働していたという。担当者は「利用している市民が多く、突然止めるのは難しい」とこぼす。

 東京都足立区は3月と4月に計2件誤交付が起き、1日に謝罪会見を開いたばかりだった。横浜市でのトラブルを受け、同社はシステムを一時止め、プログラムを修正するなどしていたが、区のトラブルの一部はその後に起きた。担当者は「区としても重く責任を感じている。今後システムを停止することになれば、区民の信頼を失う。万全なシステムなのか、富士通側に確認したい」と困惑気味だった。

 熊本市では、横浜市などで不具合が確認された際、同社から「サービスが異なるため問題ない」と報告を受けていた。熊本市の担当者は「どういう形で点検するかなど、富士通Japanの方針を待っている」と話す。愛知県刈谷市豊橋市など、同社のシステムを利用している自治体は全国に200弱。両市も引き続きシステムを稼働させている。

 ■「自治体が判断すべきだ」 識者

 情報セキュリティーに詳しい立命館大の上原哲太郎教授は「国が責任を持つマイナンバーカードそのものの問題ではなく、自治体が責任を持つシステムで問題が起きた。コンビニ交付のシステムやそのリスクは自治体によって異なる。自治体は問題を未然に防ぐ責任があり、住民はリスクと利便性を理解した上で利用を考えていく必要がある」と指摘する。

 今回の政府の要請については、「コンビニでの交付が停止されると、自治体や住民は大きな負担と不便を強いられる。停止はそれぞれの自治体が判断すべきで、デジタル庁が一律の停止まで要請するのは踏み込みすぎではないか」と話す。

 マイナンバーカードを使ったコンビニでの交付は、平日に役所の窓口に行けない人のため、早朝や深夜でも交付ができるシステムだ。利便性の高い環境が整ったことに伴い、公民館や支所に置いていた証明書の機械を廃止した自治体もあるという。(江戸川夏樹)

 <訂正して、おわびします>

 ▼10日付社会面のマイナンバーカードを使ったコンビニ交付サービスの記事で、このシステムが「24時間365日交付ができる」とあるのは「早朝や深夜でも交付ができる」の誤りでした。稼働時間は通常午前6時半から午後11時です。

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