(社説)ジャニーズ 「性被害」検証が必要だ

社説

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 大手芸能プロダクション「ジャニーズ事務所」に所属していた男性が記者会見し、創業者であるジャニー喜多川氏(2019年に死去)から性被害を受けていたと証言した。

 15歳で入所した12年から16年の間に、喜多川氏の自宅などで15~20回、性行為をされたという。ほかの少年たちが被害に遭うのを目撃したとも話した。

 決して見過ごすことができない問題である。

 別の男性も、朝日新聞の取材に対し、喜多川氏から同様の行為を迫られたと証言した。いずれも具体的な内容だ。

 喜多川氏は今や故人で反論ができないことに留意する必要はある。しかし、喜多川氏の「セクハラ」を報じた週刊誌の記事が名誉毀損(きそん)にあたるとしてジャニーズ事務所などが出版社を訴えた裁判では、セクハラに関する記事の重要部分を真実と認める判決が、最高裁で04年に確定。喜多川氏自身もその裁判で「(被害者が)うその証言をしたということを、僕は明確には言い難いです」と述べていた。

 ジャニーズ事務所は長年にわたって多くの人気男性アイドルを世に送り出し、テレビや映画、音楽など芸能界で広く絶大な権威をふるってきた。

 その地位と力関係を利用し、アイドルとして成功したい少年たちの弱みにつけこんだ卑劣な行いが密室で繰り返されていたのが事実とすれば、重大な人権侵害である。芸能界で性被害の告発が相次ぐなか、未成年が被害を受けていたなら問題はさらに深刻だ。

 ところが、ジャニーズ事務所の対応はきわめて鈍い。

 男性の会見を受け、コンプライアンス順守やガバナンス体制の強化を進めるとのコメントを出したが、事実関係についての言及はない。一般論に終始しており、とうてい不十分だ。

 人権に配慮しながら幅広く調査を行い、まずは事実関係を明らかにするのが当然のつとめのはずだろう。ほかの経営陣や従業員は知らなかったのか。04年の判決確定後に組織としてどんな対策をとったのか。こうした疑問も尽きない。第三者による徹底した検証を行い、社会に対して説明する必要がある。

 ジャニーズ事務所に所属する芸能人には、子どもから大人まで世代を超え多くのファンがいる。社会への影響力も非常に大きい。それだけに、企業として重い責任と社会的使命が課せられていることを自覚すべきだ。

 喜多川氏による性被害の証言は以前から出ていたが、一部の週刊誌などが中心だった。メディアの取材や報道が十分だったのか。こちらも自戒し、今後の教訓としなければならない。

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    三牧聖子
    (同志社大学大学院准教授=米国政治外交)
    2023年4月15日11時51分 投稿
    【視点】

    国際NGO「国境なき記者団」による報道の自由度ランキング2022年度版で、日本は「大企業の影響力がメディアに自己検閲を促している」という理由等で去年から順位を4つ下げ、71位となった。先進国では最低レベルだ。ジャニー喜多川氏による少年への性

    …続きを読む
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    小林恭子
    (在英ジャーナリスト)
    2023年4月15日14時42分 投稿
    【視点】

    今まさに、何が起きたかを検証するために、事実関係を調査する仕組みが立ち上がるべきではないでしょうか。 取材に応じた被害者の方々には、相当な勇気が必要だったことと思います。 被害にあっても、口外できない人も多数いることでしょう。

    …続きを読む