(社説)「卓越大学」 過度な介入 慎むべきだ

社説

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 これで日本の研究力は向上するだろうか。

 世界トップレベルを目指す「国際卓越研究大学」の公募に、10校が応募した。政府が数校を選び、10兆円規模の大学ファンドの運用益で、1校あたり年数百億円を支援する。

 この制度が作られたのは、日本の研究力が落ち続けているからだ。例えば文部科学省が昨年発表した指標によると、引用された数が各分野のトップ10%に入る論文数はG7諸国で最低になり、韓国、スペインにも抜かれ12位に後退した。

 今回の公募は、抜本的に大学を変革する狙いがある。政府の支援とともに年3%の事業成長で資金力を高め、世界から多様で優秀な研究者や博士課程の学生を集め、設備や研究支援も充実させる。大学が自律的に使える多額の資金を投入できれば、人材や施設の充実につながり、一定の効果はあるだろう。

 しかし研究力低下の原因と指摘され続けてきたのは、実用につながる応用研究の優先や、若手を中心とした研究者の雇用の不安定化などだ。

 政府の会議が重点的に資金投入する分野を決める「選択と集中」が進み、一方で人件費を支える交付金が減らされてきたことが背景にある。この施策の検証や反省なしに、一部の大学に資金を集中する政策を進めては、これまでの二の舞いとなりかねない。

 今回の制度を作る法案が可決された際の付帯決議でも、基礎研究も含めた研究の多様性確保▽研究者の身分安定や正規雇用職員の増加▽人件費の基礎となる経費をまかなうこと▽地方大学への支援――が求められた。

 イノベーションを起こすような飛躍的な成果は、予想できないところから芽生える。自由な発想や多様性、裾野の広さが欠かせない。今回応募した側の危機感も強く、研究の多様性を確保する指標の設定、地方大学への支援を考える大学もある。

 選考では、面接や現地視察など、大学とやり取りをして、提出された計画は作り替えられていくという。選考を担う有識者会議は、科学技術政策の「司令塔」である政府の総合科学技術・イノベーション会議のメンバー、国内外の大学関係者や財界人らで構成される。どんな目利きができ、何を注文するのか。

 従来の政策のように、目先の成長への貢献を求める方向で計画を改めさせることはないか。政府や産業界から資金を得やすい分野、論文の引用数が期待できる分野だけを重視しないか。懸念は尽きない。大学の自治や研究の自由を損なっては元も子もない。政府や有識者会議は、過度な介入を慎むべきだ。

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