(社説)沖縄密約報道 政府の秘密体質いまも

社説

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 沖縄返還をめぐる日米両国の密約を指摘し、その生涯を通じて、政府の「うそ」を追及し続けた元毎日新聞記者の西山太吉さんが亡くなった。最初の報道から半世紀以上たった今も、政府の秘密体質が変わったとはいえず、権力に迫る報道のあり方も問われている。

 1971年の沖縄返還協定の裏で、米側が負担すべき米軍用地の原状回復の費用400万ドルを、日本側が肩代わりする約束が交わされた。外務省の女性事務官から極秘文書を入手した西山さんは、秘密漏洩(ろうえい)をそそのかしたとして、国家公務員法違反容疑で逮捕、起訴された。

 本来なら、密約の有無こそがただされねばならなかったが、起訴状に「ひそかに情を通じ」と書かれたことで、世間は政府に真相を求めるよりも、情報の入手方法への批判が専らとなった。西山さんは退社し、最高裁で懲役4カ月執行猶予1年の有罪判決が確定する。

 しかし、2000年以降、米側で密約を示す公文書が公開され、09年には返還協定の交渉にあたった当時の外務省アメリカ局長が法廷で証言した。

 それでも、政府は否定を続け、日米の密約の検証に取り組んだ民主党政権が10年、その存在を事実上認めた後も、西山さんらが情報公開を求めた訴訟に対し、「文書が存在しない」として公開を免れている。

 民主主義国の外交に本来、密約はあってはならない。やむを得ない事情があったとしても、きちんと記録にとどめ、後に公開して、歴史の検証に付さなければならない。それが国民に対する責任というものだ。

 14年に施行された特定秘密保護法では、外交交渉などを理由に、中身次第では半永久的に秘密扱いにすることも可能だ。漏洩した公務員に対する罰則も、10年以下の懲役と強化された。秘密保持の体制はむしろ強化されている。

 第2次安倍政権下では、森友・加計・桜を見る会や自衛隊の日報問題をめぐり、公文書を隠したり、廃棄・改ざんしたりする事例が相次いだ。政府内の根深い隠蔽(いんぺい)体質や公文書軽視を如実に示すものといえる。権力を監視するジャーナリズムの役割が、一層重みを増しているゆえんだ。

 確かに、密約を暴いた西山さんの取材手法には問題があり、文書の写しを野党議員の国会質問のために渡したことで「情報源の秘匿」を守れなかった事実も重い。だからといって、政府のうそが見過ごされていいわけではない。粘り強い取材で真相に迫り、市民の「知る権利」に応える。メディアの責任の重さを改めてかみしめたい。

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