(社説)留置中の死亡 収容の実態 徹底検証を

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 警察に留置された容疑者の処遇をめぐり、信じがたい事案が大阪と愛知で起きた。いずれも容疑者の死亡という最悪の結果を招き、加えて違法で組織的な虚偽報告や暴力行為の疑いがある。警察・法曹界をあげての徹底的な検証が求められる。

 資産家殺人事件の20代容疑者が9月、大阪府警福島署の留置場で自殺した経緯について、内部調査結果が先週公表された。署員らは定時巡回や私物点検を怠ったうえ、あろうことか、偽りの報告書を作って職務を果たしたかのように装っていた。

 容疑者が亡くなる直前の1時間、書類上は巡視を「7回」実施したとしていたが、実際は一度もしていなかった。その6日前に私物保管庫の検査で「異常なし」と報告したが、点検すらしておらず、真っ赤なうそだった。自殺に使われた衣類の残りが事後に見つかったという。

 府警は、私物点検について関与を特定できた署員3人を虚偽有印公文書作成・同行使の疑いで書類送検した。「どこかで気づけば防げた」とする府警の調査報告書には「危機感の欠如」「言語道断」と厳しい言葉が並ぶ。だが、署員の刑事責任や上司の監督責任を問えば足りる話ではない。被収容者の心身の状況を把握する意識と態勢が組織内で徹底できていたのか、踏み込んだ調査・分析が必要だ。

 さらに今月、愛知県警岡崎署で公務執行妨害事件の40代容疑者が死亡した件は悲惨極まりない。両手と腰を「ベルト手錠」で縛られ、拘束は延べ140時間以上に及んだという。その状態で複数の署員が蹴るなどの暴行を加えたとされ、持病の薬も与えられずに亡くなった。

 「暴れて腹が立った」「拘束は指示がなく外せなかった」。署員らはそう釈明したという。拘束具は、自傷の恐れがある場合など厳格な要件で使用を認められる。こんな形で使われたとすれば許されない。強制捜査に踏み切った県警は、全容を解明しなければならない。

 明治期以来の監獄法に代わって06年に刑事収容施設法ができたが、かつての「戒具」にほぼ等しい拘束具は今も各地の警察で使われ、人権侵害の訴えも絶えることがない。適正な使用の徹底は当然だが、改めて存廃を考える時ではないか。

 容疑者は逮捕・送検後、裁判所が勾留を認めれば、法務省所管の拘置所へ移すのが刑事司法の原則だ。だが、捜査と留置の完全分離は、警察の捜査の効率性などを理由になお実現していない。法と実務を国際基準にあわせるよう、国連の委員会からも再三指摘されてきた問題である。今回の事態も踏まえ、新たな議論を始めるべきだ。

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