(社説)原発建て替え 山積する疑問に答えよ

社説

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 岸田政権が、古い原発の「建て替え」に向けて踏みだそうとしている。原発依存がもたらす数多くの問題への解答も示さぬまま、首相の検討指示から3カ月余の議論で大きな方針転換をするのは、あまりに乱暴だ。再考を求める。

 経済産業省が、総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会に、「今後の原子力政策の方向性と実現に向けたアクションプラン」の案を示した。「再稼働への総力結集」「既設炉の最大限活用」に加え、「次世代革新炉の開発・建設」を盛り込んでいる。まずは廃炉の置き換えとして建てる想定だ。

 福島第一原発事故の教訓を踏まえ、歴代政権は原発建設を封印し、エネルギー基本計画では「可能な限り依存度を低減する」と定めてきた。だが、建て替えを進めれば、原発依存がさらに数十年続く。

 経産省は、エネルギーの安定供給には原発建設が必要と説明する。だが、実現したとしても十数年以上先で、足元の供給不安や燃料高騰とは、時間軸がまったく異なる。

 一方、原発に頼り続けることには、安全性や経済性、放射性廃棄物の扱いといった様々な側面で、大きな疑問がある。だが、建て替え案は、そこにはほとんど答えていない。

 「次世代革新炉」のうち、現時点で技術的に実用化の道筋が見えているのは、従来の軽水炉に新たな安全装置を加えた改良型だけだ。経産省は安全性の向上を強調するが、専門家には「安全面で革新的とまでは言いがたい」との声もある。自然災害のリスクが大きい日本で十分な水準なのかも不透明だ。

 経済性はどうか。海外では近年、新型原発の建設費が大きく膨らむ例が相次ぎ、東芝は米国での失敗で経営危機に陥った。開発・建設の巨額投資は、民間だけでは担えそうにない。

 経産省もそれは認めざるをえず、資金面の公的支援や、事業者の収入を安定させる新制度を検討するという。だが、経済性に乏しい事業への過度の肩入れは、国民負担を際限なく膨らませかねない。

 廃棄物処分や、核燃料サイクルの行き詰まりについても、経産省案は取り組み強化や国の支援をうたうだけで、具体性を欠く。意気込みだけで解決するような問題ではないはずだ。

 原子力小委では、時間をかけた丁寧な議論を求める声も出たが、黙殺されている。政府は年内に新方針を決める構えだが、根本問題を置き去りにした転換は禍根を残す。再生可能エネルギーを脱炭素化とエネルギー自給の主軸とし、原発依存を着実に減らす道に立ち返るべきだ。

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