(フォーラム)50代社員、諦めないで

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 人生半ば、不惑を過ぎても思い惑うことは多い。そう感じている50代の会社員は少なくないでしょう。私もです。「働かないおじさん」と揶揄(やゆ)する言葉が気になるものの、中高年の働き方は日本社会にとって極めて大切な課題を示しています。みんなで考えてみませんか。

 ■後進育て、誰かの役に立とう 人事コンサルタント、フォー・ノーツ代表の西尾太さん

 フォー・ノーツ株式会社代表で、自ら転職、起業を経験した人事コンサルタントの西尾太さん(57)は、企業に対して「50代社員を諦めないで」と語る。アドバイスや意見を聞いた。

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 ――若い世代が中高年をどう見ているのかが気になります。

 「私たちの調査では、若手社員の50代への評価は概して高く、『新たなスキルや知識を身につけ、未経験の仕事に取り組むことができる』と考える人が約45%に上りました。私たちの世代を温かい目で見てくれているんだな、と意外でした。半面、50代の当事者に意欲を聞くと、3人に1人が『できれば取り組みたくない』と答えている。消極性や自己評価の低さが目立ちました」

 ――自分の能力がどれだけあるのか、悩んでいる人も多いのでは。

 「真面目に30年以上仕事をしていたら、自分では意識していなくても経験やスキルは蓄積している。それを棚卸ししてみましょう。これまで積み重ねてきたことを体系化し、後進を育てることを考える。人を育てる50代を企業は手放しません」

 ――中高年の頃は教育費や住宅ローンなどの負担が多い。公的支援が少ない日本では、その分、年功賃金で企業がまかなってきました。

 「給与が抑えられていた20代、30代に馬車馬のように働いたのだから、その分を払って欲しいと考えるのは分かります。しかし、バブル崩壊後、中高年を温かく処遇できる企業は減りました。若い社員は現在の働きに見合う給与を払わないと辞めていく時代です。今の価値に対する賃金を時価払いしなくては企業が立ちゆかなくなった。それが、人事施策を手伝っている私の実感です」

 ――企業が適切な仕事を割り当てられていない面もありませんか。

 「その人のパフォーマンスを最大限に発揮できる部署が社内にあれば幸運でしょう。一方で、最近では社外での人材の流動性も高くなっており、大きな組織できちんと仕事をしてきた管理職経験者が欲しい、という中堅企業も増えています」

 ――中高年以降の働き方、生き方が変化しているのでしょうか。

 「働く理由を中高年に問うと、多くの人は給料のためと答えます。管理職研修でも、誰かの役に立ちたいという外向きの答えが少ない。収入を得るのは大切ですが、生活のために耐えるというモードでは自分がもちません。どんな価値を社会に提供できるか、考えましょう」

 「漫画『サザエさん』の波平さんは54歳ですが、当時は定年間近でした。今の中高年は昔より若く健康で、多くの人が60歳を超えても働くことができる。これから再スタートするような気持ちになるのがいいと思います」

 ■気持ち若い、変化受け入れて 日本総合研究所創発戦略センタースペシャリスト・小島明子さん

 50代男性の働き方は、なぜ社会にとって重要なのか。「中高年男性の働き方の未来」を出版した日本総合研究所創発戦略センタースペシャリストの小島明子さん(46)の視点とは。

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 ――50代会社員の働き方に注目が集まっています。

 「中高年男性について研究をするようになったきっかけは、10年ほど前の女性活躍をテーマにした調査でした。同時に男性管理職を対象にしたところ、こちらの方に大きな反響があったのです。業績がよくても、中高年社員に希望退職をうながす企業は増えています。一方で、若手と一緒に活躍して欲しいと考えている企業も少なくありません」

 ――この問題は社会にとって、どんな意味があると思いますか。

 「中高年男性たちは、キャリアプランの迷いや仕事のストレス、居場所のなさといった悩みを抱えつつ、それを打ち明けられない。米国では『ガラスの地下室』と表現する研究者もいます。女性たちは仕事と家庭の両立に悩んできましたが、中高年男性たちも多くは家計の経済的責任を一手に負っている。バブル期入社で管理職の大半を占めるボリュームゾーンの男性たちが幸せに働ける社会でなければ、社会全体の働き方改革も進まないと気づきました」

 ――私たち中高年男性の一般的なイメージはどんなものでしょう。

 「『働かないおじさん』という言葉が注目され、働く意欲が低いと思われがちですが、調査で浮かんだのは『やる気はあるが、ハードな仕事は体力的に厳しい』という姿でした。それでも『自己成長したい』『やりがいのある仕事をしたい』という思いは若い頃と変わらない。活躍の場がありさえすれば、気持ちは若いのです。女性は出産、育児によって長時間労働ができない壁にぶつかりますが、中高年男性も似た状況にあります」

 ――裏返しのジェンダー問題でもあるということでしょうか。

 「固定的な価値観で女性は苦しんできましたが、男性も同様だったのだと思います。今後は男女雇用機会均等法世代が増え、中高年の女性でも同じ問題が起きるでしょう」

 ――どうしたらいいでしょうか。

 「柔軟性が大切だと思います。若い友人を多く持ち、新しい変化を受け入れる。仕事について自分が今までしてきたことを言語化する。一足飛びに転職を考えるのではなく、副業や兼業で自分のスキルを試してみるのはどうでしょうか」

 「会社の側も、中高年でも成果を出した人は報われる人事制度の設計が必要です。部署の縦割りではなく、プロジェクト単位で仕事を割り振れば、経験のある中高年社員の活躍の場が増えるでしょう」

 ■「おじさん視」がブーメラン 「肩書付かないおばさん」も

 アンケートは、当事者に近い40代、50代、60代からの回答が7割近くを占めました。結果はhttps://www.asahi.com/opinion/forum/162/で読むことができます。

 ●まさにブーメラン 5年ほど前までは先輩社員に対し、「給料泥棒」などと厳しい言動や視線を浴びせていた私が、いまや若手社員から、給料に見合った仕事をしていない「働かないおじさん視」されているのではないかと、びくびくしながら仕事をしています。まさにブーメラン。人件費抑制のため中高年社員を敵視する経営側と同化し、労働者同士で争わされていたのではと痛感しています。(福島、男性、40代)

 ●就職でなく就社 日本企業の特徴は年功序列と新卒一括採用であって、これで採用された「おじさん」が悪いのじゃない。今までは就職ではなく、実は「就社」であった。今後は本当の意味の就職すなわちジョブ型で人を採用すべきだ。(千葉、男性、80代)

 ●雇用と社会見直せ 40代にもなれば自分が将来どの程度のポストにまで上昇できるかわかる。終身雇用の日本では、転職によって給与減などの不利益があることから、同じ会社で働き続けざるを得ない。日本の雇用環境、会社制度、社会制度までをも見直さなければ改善できない問題だろう。(岡山、男性、50代)

 ●女性を増やさないと 当事者に対してかわいそうと思ったことはありません。現役の「おじさん」にとってやさしい人事制度で、働くモチベーションが下がるので退職しました。管理職じゃなくても、純粋に働く女性を増やして、相対的に「おじさん」を減らすしかないかなと思います。(東京、女性、40代)

 ●人事からこぼれ落ちる女性 人事と昇給の仕組みを見える化せず、将来像を示さなかった経営陣が責任の先送りをした結果、「働かないおじさん」を創り上げたと考えています。対になる言葉として、人事評価の仕組みからこぼれ落ち、これまた長年放置されてきた「肩書が付かないおばさん」を挙げたいと思います。(神奈川、女性、50代)

 ●重要な社会問題 本人を一方的に悪者扱いするのではなく、不活性の状態から改善するために、経営者・人事・上司・本人がそれぞれ問題解決に向けて真剣に努力する必要がある。少子高齢化が進む日本では、ミドルシニアの活性化は重要な社会問題。(東京、男性、40代)

 ●中高年のノウハウ生かせない 人材を育てるという企業理念が失われ、目の前の利益追求に意識を奪われたことから、結果として労働の喜びを感じることが出来なくなったことに起因する。中高年が培ったノウハウを生かす機会も失われ、世代間にあつれきが生まれてきていると感じている。(栃木、男性、60代)

 ●まだ活用すべき世代 会社側も若い人をいかに育てるかに注力しており、仕事の機会を若い世代に与えがちな姿勢を変えない。中高年だって、まだ10年以上働けるわけだし、教育と経験を積ませて、活用すべき世代なのではないか。(東京、女性、50代)

 ■人生のプランB、強者の側だった自分は

 筆が進まない。50代を扱うテーマが、これほど書きにくいとは。

 これまで記者として、子どもから高齢者まで多くの方々に取材をし、原稿を書いてきた。フォーラム面を担当してからも、多くの人々の切実さを採り上げた。だが、中高年会社員の働き方というテーマは勝手が違う。そう、自分が当事者だから。

 「働かないおじさん」「会社の妖精さん」。この世代を名指す言葉のユーモラスかつ毒のある響きとは裏腹に、このテーマはいくつもの重要な社会的課題をはらんでいる。

 日本企業の強みとされた終身雇用と年功序列がグローバル資本主義のダイナミズムに追いつけずにいるのは、多くの人が感じている。現役人口が減り続ける日本で、中高年の能力と経験が死蔵されるとしたら壮大な無駄である。新たなルールで生きようとしている若い世代との意識ギャップや不公平感も座視できない。

 それを分かりつつも身動きが取れないのは、人生のプランBが見当たらないからだろう。企業社会の慣習、経営の無策、個人の固定観念によって、まさに「ガラスの地下室」に閉じ込められている。

 このテーマ、どうにも書きにくかったのは、正社員男性が日本社会における多数派であり、強者の側だったからだと思う。その分、自分を客観視するのが難しい。時代の変化は理解しているつもりでも、今までの生き方を否定されるのはつらい。

 人生100年時代、50代は後半戦の始まりだ。どう生きるか、絶対にひとごとにはできない。自分で考え、自分で決めろ、と自分に言い聞かせてみる。

 ◇真鍋弘樹が担当しました。

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 ◇来週18日は「何だったのか、東京五輪」を掲載します。

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