(社説)参院選 外交・安保 力のみでない戦略を

社説

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 ロシアのウクライナ侵略を目の当たりにして、国民が自国の安全保障に不安を抱くのは当然だ。だが、それに乗じるかのように、一気に軍事力の増強に走るのが、真に平和と安定につながるのか。外交を含めた総合的な戦略を構築することこそ、政治が果たすべき役割である。

 今回の参院選では、かつてなく安保政策に注目が集まっている。必要な防衛力整備を進めつつ、日米同盟を基軸に、アジア・欧州諸国との連携を深めるという基本線を共有する党は多いが、抑止力の強化策について、考え方の隔たりは大きい。

 自民党は、北大西洋条約機構NATO)が目標とする対国内総生産(GDP)比2%以上も念頭においた、5年以内の防衛予算の増額を公約に掲げた。敵基地攻撃能力は「反撃能力」と言い換えたうえで、「保有」を明記。総合政策集の中で、対象はミサイル基地に限らず、指揮統制機能も含むとした。

 日本の防衛費の対GDP比は、おおむね1%だ。2%となれば、米国、中国に次ぐ世界第3位になるとみられる。平和憲法の下、抑制的な安保政策を続けてきた日本の対外的なイメージは大きく変容するだろう。相手国の中枢も標的とする攻撃能力の保有と合わせ、軍拡競争に拍車をかけ、かえって地域を不安定化させる恐れもある。

 党公約では踏み込んでおきながら、岸田首相は、防衛費は「数字ありきではない」、敵基地攻撃能力は「検討中」などと、あいまいな発言を続けている。財源を含め、具体的な説明をしないまま、選挙後にアクセルを踏むことは許されない。

 野党の中でも、日本維新の会は明確に防衛費のGDP比2%を掲げる。国民民主党は「自衛のための打撃力(反撃力)」の整備をうたう。年末の国家安全保障戦略の改定や来年度予算案の編成に向け、力に傾斜する自民党を両党が後押しする場面もあるかもしれない。「平和の党」を自任する公明党連立与党としてどう臨むのか、選挙戦の中で考え方を示すべきだ。

 「着実な安全保障」を重視する姿勢は、立憲民主党も変わらない。「総額ありきではない」としながらも、「防衛力の質的向上」を図るとした。同時に、「対話による平和」も打ち出している。共産党は「対話」を全面的に押し出し、「戦争をさせない外交努力」を訴える。力のみに頼らない、説得力のある対案を示せるかが問われる。

 戦後日本の安保政策の転換点になるかもしれない重い選挙である。各党は明確なビジョンと具体策を掲げ、徹底した論戦を通じて、有権者に確かな判断材料を示さねばならない。

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