(社説)経済安保法 懸念残した国会審議

社説

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 経済安全保障推進法が国会で成立した。経済活動に国が介入するうえでは透明性と民主的決定の確保が不可欠だが、この法律では具体的な運用の多くが政府が今後決める政省令に委ねられた。国会の審議でも政府側はあいまいな説明に終始した。過度な介入につながらないか、懸念を抱かざるをえない。

 推進法は、(1)経済や国民生活に不可欠な「特定重要物資」の供給網を強化(2)基幹インフラ14業種の設備に懸念のある製品が導入されないか事前に審査(3)先端技術での官民協力(4)原子力や高度な武器に関する技術の特許非公開――が柱だ。違反には最大懲役2年の罰則がある。

 政府は特定重要物資の供給を担う企業に助成したり、基幹インフラを担う企業への審査結果次第で勧告や命令を出したりできる。「アメとムチ」で企業に協力を促す仕組みだ。

 朝日新聞の社説は、国際環境や技術の変化を踏まえた政策対応の必要性は認めつつ、経済活動や国際分業への悪影響を軽視せず、介入は最低限度にとどめるべきだと主張してきた。推進法も、規制措置で「経済活動に与える影響を考慮」し、「合理的に必要と認められる限度」にとどめると明記した。

 しかし一方で、特定重要物資や事前審査対象になる設備の指定など、政令や省令に委ねられた項目が138カ所に上った。これでは、どんな経済活動がどの程度規制されるのかがはっきりしない。

 国会審議で不明確さを野党に問われても、政府側は「予断をもって言及できない」などと述べて詳細を語らなかった。恣意(しい)的な運用や過度な介入への歯止めも具体的に示されていない。

 制度の細部を政省令に委ねることはあるだろう。それにしても、広範な介入を可能にするこの法律の重大性を考えれば、できる限り具体性をもって、国会で妥当性を議論すべきであった。説明をしなかった政府側の責任は重大だが、野党の監視機能も十分に発揮されたのか、疑問が残る。

 衆参両院の委員会は付帯決議で、企業の自主性尊重などに加えて施行状況の国会や国民への説明を求めた。今後、政府が政省令を決めるにあたって、こうした点を誠実に実行することは最低条件である。企業や研究者など幅広い声に耳を傾け、規制のルールを明確にしなければならない。

 政府の裁量が大きい「アメとムチ」は、天下りなどの癒着や利権の温床にもなりがちだ。安保を名目に、そうしたゆがみが生じるようなことはあってはならない。そのためにも、国会は引き続き監視を強めるべきだ。

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