(社説)安保戦略改定 検討過程の透明化を

社説

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 日本の安全保障に関する基本方針である国家安全保障戦略(NSS)の9年ぶりの改定に向け、岸田政権が有識者からの意見聴取を始めた。新しい防衛計画の大綱中期防衛力整備計画と併せ、年内に取りまとめる方針だ。

 台湾への挑発を含め、既存の秩序に力で挑み続ける中国に対する認識や、今国会で政権が先行して法整備をめざす経済安全保障、首相が選択肢として検討を明言した「敵基地攻撃能力」の保有などが焦点になる。

 NSSは2013年、第2次安倍政権が初めて策定した。中国の台頭や北朝鮮の核・ミサイル開発など、日本を取り巻く安保環境が厳しさを増すなか、外交と防衛を統合した包括的な指針との位置づけだ。

 米国を始めとする関係国と連携し、国際社会の平和と安定に積極的に寄与するとして、「国際協調主義に基づく積極的平和主義」を基本理念に掲げ、防衛力の着実な整備や日米同盟の強化などが柱となった。

 集団的自衛権行使の一部容認に道を開いた安保法制の整備や、過去最大を更新し続ける防衛費専守防衛の原則から逸脱する空母への護衛艦改修など、その後の歩みを振り返れば、NSSが日本の安保政策の力への傾斜を強めたことは明らかだ。

 対中国を念頭に、普遍的価値を共有する豪州や欧州などとの関係強化は進む一方、韓国との緊密な連携や、中国との防衛交流の促進、不測の事態を回避するための枠組み構築など、NSSに盛り込まれた「戦略的アプローチ」のうち、前進がみられないものもある。

 改定にあたっては、この間の取り組みをしっかり検証したうえで、何が日本の安保環境の改善につながるのかを熟慮し、外交を含む、文字通り総合的な戦略に仕上げねばならない。

 その際に重要なのは、民間を含めた、多様で幅広い専門家の知恵を結集することと、検討の過程をなるべく透明化して、国民の理解と納得につながるようにすることである。

 最初の策定の時は有識者による懇談会が設けられ、議事要旨が公開された。今回は個別に意見を聞く形で、内容が公表される予定はない。「国民と共にある外交・安保」を掲げる岸田首相である。判断の根拠となった情勢分析や将来見通しを含め、可能な限り明らかにすべきだ。

 首相は先の衆院本会議で、NSSについて「様々な機会に、国民にも、国会にも、できるだけ丁寧に説明していきたい」と答弁した。ならば、国家安全保障会議と閣議で決める前に、国会の議論に付すことも検討してもらいたい。

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