(社説)最低法人税率 国際協調へ大きな一歩

社説

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 日本を含む136カ国・地域が、法人税に15%の最低税率を導入することで最終合意した。不毛な法人税の減税競争に終止符を打つことになる。国際協調が遅れていた税制の分野で共通税率が実現したことは、歴史的な成果と言えよう。

 グローバル化の進展で、企業や人が活動拠点とする国を選べる時代になった。「課税逃れ」を防ぐには、各国が協力する必要があるが、国家主権の根幹である税制についてはこれまで、各国とも自国の裁量をなかなか譲ろうとしなかった。

 その弊害の一つが、企業誘致を狙った法人減税である。ある国の減税がほかの国の減税を誘発し、日本でも過去10年間で法人税率は国と地方の合計で約10%幅も引き下げられた。

 今回の合意では、税率が15%未満の低税率国にある子会社の利益に対し、親会社のある国が15%との差を課税できるようにする。税率を15%未満にする意味が無くなり、減税競争に歯止めがかかると期待される。各国・地域は、目標の23年に最低税率を始められるよう手続きを進めて欲しい。とりわけ、議論を主導した米国の参加は必須だ。

 ただ、最低税率の15%は日独の30%弱、米国の約28%の半分ほどに過ぎない。過去に引き下げた税率を戻すには、最低税率をより高くすることが望ましい。

 合意には、多国籍企業が世界で稼いだ利益に対し、サービスの利用者がいる国(市場国)が課税することも盛り込まれた。工場などの拠点がないと課税できないという、1920年代にできた原則を修正し、拠点無しでサービスを展開する巨大IT企業に市場国が課税できるようにする。

 残念なのは、GAFAと称される有力IT大手を抱える米国の反発で、市場国が課税できるのは全体の利益のごく一部に限られたことだ。

 積み残した課題の解決策を粘り強く探るよう、日本は国際社会に対して呼びかけていくことが求められる。

 各国の税制の違いを突いた課税逃れは、富裕層の個人にも見られる。所得税相続税での国際協調も議論を深めるべきだ。欧州連合などでは国境炭素税の検討が進む。新たな保護主義につながらぬよう、各国の制度の調和を図る必要がある。

 今回、各国・地域が合意に至ったのは、コロナ禍による財政難という共通する課題に直面したためだ。人類には、地球温暖化対策など協力して解決にあたるべき課題が山積している。税制における歴史的な合意を、世界に広がる自国第一主義を是正する契機にしたい。

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