(社説)産業革命遺産 約束守り、展示改めよ

社説

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 世界遺産をめぐる日本の対応に、国際機関が「強い遺憾」を表明した。対外的な信頼に関わる事態であり、政府は速やかに是正に動くべきだ。

 6年前に登録された「明治日本の産業革命遺産」である。ユネスコ国連教育科学文化機関)の委員会は、この文化遺産の説明が不十分だとする決議を全会一致で採択した。

 製鉄や造船、炭鉱など、登録された施設は九州を中心に8県にある。貴重な遺構として安倍前政権が推進したが、審議の過程では韓国が戦時下の労務動員などを理由に反対した。

 当時の委員会で日本政府の代表は「意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者らがいた」と認め、「犠牲者を記憶にとどめるための適切な措置」をとると言明した。

 日本の発展だけでなく、負の側面を含む歴史の全体像の叙述に努める。それが国際社会への約束だったのである。

 しかし昨年、東京都内の国有地に開設された「産業遺産情報センター」の展示については、多くの研究者や専門家が偏りを指摘してきた。

 展示では、登録施設のうち長崎県の端島炭鉱(軍艦島)を取り上げ、労働の強要はなかったなどとする当時の関係者のインタビューが紹介されている。

 ユネスコの委員会はそれらの現状を踏まえ、「暗い側面」を見学者が理解できるような「多様な証言」を提示しようとしておらず、犠牲者の説明も不十分だとする判断を下した。

 朝鮮半島からの動員は、日本政府自らが認める通りの史実である。遺産登録された各地の施設でも、過酷な労働が強いられたことがわかる資料や証言が見つかっている。

 そうした点には目をふさぎ、光の部分だけ強調するというのでは、約束違反だと言われても反論できまい。

 日本政府は、これまでの勧告や約束した措置を「誠実に履行してきた」(加藤官房長官)と主張している。ならばなぜ決議採択の際、オブザーバー参加していたにもかかわらず、反論しなかったのか。

 今回の決議は来年12月1日までに、今後の対応を報告するよう日本側に求めている。

 必要なのは、情報センターのあり方を改めることだ。犠牲者の記憶の展示と情報発信を確立するよう、幅広い専門家の意見を仰がねばならない。

 どの遺産であれ、多くの歴史には陰と陽の両面があり、その史実全体を認めてこそ世界共有の財産になりうる。日本政府は決議を謙虚に受け入れ、ユネスコとの約束を果たすべきだ。

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