(社説)4度目の宣言 矛盾する「発信」に懸念

社説

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 緊急事態宣言からまん延防止等重点措置に移行して3週間、懸念されていた新型コロナの感染再拡大が現実のものとなり、政府はきのう、東京都を対象に、今年に入って3度目、通算で4度目となる緊急事態を宣言することを決めた。

 ワクチンの効果で高齢者の感染は確実に減り、病床にはまだ少し余裕がある。とはいえ、入院患者は増えており、接種の進んでいない中高年が重症者の中心に移りつつある。インドでみつかった、より感染力の強い変異株(デルタ株)への置き換わりも進む。医療体制の逼迫(ひっぱく)を招く前に、感染の拡大抑止に全力を挙げるべき局面である。

 東京は前回、重点措置から宣言に早めに切り替えた結果、関西で起きたような深刻な流行を免れることができた。しかし、今回も同様の効果が得られる保証はない。

 政府は宣言の期間を来月22日までと、当初の設定では過去最長となる42日間に定めた。今月後半の4連休や夏休み、お盆といった人の移動が活発になる時期をカバーするためだ。しかし、東京五輪という、多くの国民が懸念する一大イベントの開催を強行する政府が、飲食店の営業制限や個人の行動抑制を呼びかけたところで、説得力に欠けるのは明らかだ。

 政府は今回、飲食店に対し、重点措置の下では認めていた酒類の提供を再び禁止し、午後8時までの時短要請を徹底する。協力金の支給が遅いという切実な声を受け、先渡しができる仕組みを導入するというが、この半年間、自由に営業できず疲弊した事業者から、従来のような協力を得られない恐れもある。

 「自粛疲れ」がいわれる市民にとっては、さらに1カ月以上、日常生活への制約が続くことになる。学校の運動会や地域のお祭りなど、身近なイベントが次々と中止や延期となるなか、五輪の「特別扱い」への疑問や不満が感染対策への取り組みに影響しないとも限らない。

 「東京五輪は無観客が望ましい」とした先日の専門家らによる提言は、観客を入れることが「感染対策を緩めてもいい」という「矛盾したメッセージ」になるリスクを指摘した。観客の有無にかかわらず、五輪の開催自体がその矛盾をはらんでいるとみるべきだろう。

 首相はきのうの記者会見で、ワクチン接種の進展で「新型コロナとの闘いにも区切りがみえてきた」と語り、緊急事態の前倒し解除の可能性にも言及したが、楽観的にすぎないか。宣言下でも感染を抑え込めなかった場合はどうするのか、最悪の事態も想定して対策を用意するのが政治指導者の責務だ。

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