新・ドリトル先生、「好き」の続き 記者サロン
■まなび つながる 広場
本紙で連載中の「新・ドリトル先生物語」、その秘密に迫りました。記者サロン「福岡伸一さんにきく~『新・ドリトル先生物語』誕生秘話~」を6月13日にオンラインで開催し、福岡さんが東京・築地の朝日新聞本社スタジオから出演。2600人を超える申し込みがありました。連載の裏話から、興味や関心の広げ方、子どもたちへのメッセージまで、やさしい言葉で福岡さんが語りました。連載を担当する、文化くらし報道部の興野優平記者が聞き手を務めました。
■昆虫少年の興味、点と点がつながった 福岡さん
幼いころから好奇心のおもむくまま掘り下げてきた興味・関心が、思いも寄らぬところで結実してきた半生だったという。
「人と目を合わせられず、下ばかり見ていた」という昆虫少年はある日、図書館で地味な背表紙の本に出合う。それが「ドリトル先生航海記」だった。動物の言葉を解し、助手のトミー・スタビンズくんとともに世界中を旅するドリトル先生シリーズにたちまち引き込まれた。
一方、生物学者として長年憧れを抱いていたのが、進化論を打ち立てたチャールズ・ダーウィンが訪れていたガラパゴス諸島だった。コロナ禍が広がる直前の昨春に夢がかない、ダーウィンの航路に近い形で島々を回った。ノンフィクション「生命海流 GALAPAGOS」(朝日出版社)に収録した現地での写真などを画面に投影しながら、旅で出合ったユニークな動物たちを紹介した。
連載は、そのドリトル先生とガラパゴス諸島が意外な形で結びついた。それを福岡さんは、米アップル社の創業者スティーブ・ジョブズの言葉を借りて「コネクティング・ザ・ドッツ」と表現した。ジョブズは若い頃、大学でアルファベットを書道のように書く「カリグラフィー」の授業にもぐり込んだ。それは後年、偶然にもパソコン「マック」の開発に生き、美しいフォントの搭載につながった。
福岡さんにとっての「コネクティング・ザ・ドッツ」は、ダーウィンの乗った英調査船ビーグル号がガラパゴスに寄港した時期と、ドリトル先生の物語の設定が同じ19世紀前半だと気づいたこと。両者が結びついて「発火した」という。「人間はまったく無関係な点を結び合わせることができる。AI(人工知能)にはできないことです」
参加者からは事前に多くの質問が寄せられた。専門を超えて、どうして幅広い分野に興味・関心を持てるのかと問われた福岡さんは、「クイズ王みたいにモノを知っているわけではないんです」。昆虫への関心が、その羽を観察する顕微鏡への興味につながり、顕微鏡であらゆるものを観察したオランダの科学者レーウェンフックへ、その同時代、近所に住んでいた画家フェルメールへ、と関心領域が広がっていった。
「小さな穴を掘り進めていった結果、様々な水脈に出合った。寄り道、回り道をしながらアプローチしていくと、必ず無関係なドットと出合う瞬間がある」
福岡さんは虫と出合い、生物学者をめざし、ガラパゴス諸島に行き、ドリトル先生の物語を書いた。だからこそ、子どもたちへのメッセージはシンプルで、力強い。
「いまの少年少女たちはまた別の世界を見ているはずだけれど、やはり面白いもの、好きなものを見つけていると思う。好きであり続けることが大切だと思います」(聞き手・構成 興野優平)
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ふくおか・しんいち 生物学者。米ハーバード大学研究員などを経て、現在、青山学院大学教授、米ロックフェラー大学客員研究者。代表作に「生物と無生物のあいだ」「動的平衡」など。
■福岡さんの人生、浮き彫りに 担当の興野優平記者
ドリトル先生というわくわくする冒険物語をテーマにしながら、福岡さんも私も濃い色のスーツだったので、福岡さんは開口一番、「まるでこれから選挙特番が始まるような感じですね」。スタジオは笑いに包まれ、緊張がほぐれました。
話を聞いていて驚いたのは、どんな質問を投げかけても、「好きなものを好きであり続けた」という福岡さんの人生が浮き彫りになっていったこと。「新・ドリトル先生物語」の誕生経緯も、参加者の質問への回答も、そこに収斂(しゅうれん)されていったのは、とても興味深いものでした。
■ガラパゴスに子が興味 塞ぐ心、柔らかくなった
●30代・女性「実際に福岡さんがお話しされるのを聞く機会はこれまであまりありませんでしたが、書かれる文章通りのお人柄が感じられて良かったです。続きがますます楽しみになりました」
●40代・性別回答なし「最近、社会の諸問題に心が塞ぐことが多いのですが、福岡さんの穏やかな語りに触れ、とても柔らかな気持ちになりました」
●20代・男性「福岡先生自身が執筆の際、場面によってドリトル先生になってうんちくを語ったり、スタビンズ君になったりと立場を変えているという点が心に強く残っている」
●70代以上・男性「福岡伸一氏の、分かりやすくかつ軽快なテンポでのお話に大変満足しています。『出合いを大切に、好きであり続けること……』の言葉、全く同感です。中学時代の恩師を思い出しました」
●50代・女性「コロナの時代をどう乗りきったらよいか、目先のことでせいいっぱいの私に、もう少し落ち着いて、俯瞰(ふかん)しようと気づかせて下さいました」
●40代・女性「小学生の子どもも一緒に視聴しました。少し難しいお話もあったかな、と思いましたが、ガラパゴス諸島のお話はとても面白かったです。子どもも興味津々でした」
●20代・女性「自分の心を動かすドットを大切にして、それらが結びついて素敵な形が浮かび上がる。そのような捉え方に触れることが出来てうれしかったです」
●60代・男性「福岡先生のお人柄がよくわかるお話だった。自分の関心のあることをつなげていくことの大切さを指摘されていたが、その通りだと思った。私にはこれまでの人生でそれがなかったと反省した」
◆イベントの模様は朝日新聞デジタルで配信しています。QRコードからアクセスできます。
■VERYモデルと学ぶジェンダー
◆VERYモデル牧野紗弥さんと学ぶ「家族とジェンダー」
7月9日(金)午後5時~
女性誌「VERY」などで活躍する傍ら、「家庭内ジェンダー平等」を掲げ、勉強と発信を続けるモデルの牧野紗弥さんと学ぶ、3回連続の記者サロン。7月9日の第2回「私が『夫婦別姓』を選ぶ理由」では、弁護士で元フジテレビアナウンサーの菊間千乃さんをゲストに迎え、夫婦別姓について考えます。事実婚に切り替えるため、法律上「離婚」する準備を進めている牧野さん。法律婚と事実婚、それぞれを選んだことで直面する課題について、当事者目線で語り合います。申し込みは募集ページ(https://ciy.digital.asahi.com/ciy/11004505)から。
■庶民の足、軽自動車のいま
◆記者サロン「軽自動車から見えるもの」
7月17日(土)午後2時~
軽自動車大手のスズキを長く率いてきた鈴木修さんが6月、経営の一線から退きました。鈴木さんの足跡をたどりながら、「庶民の足」として日本で独自に発展した軽自動車の歴史や現在の課題について、自動車業界を取材する神沢和敬、神山純一の両記者が解説します。
申し込みは募集ページ(https://ciy.digital.asahi.com/ciy/11004892)から。
■カミングアウト、スポーツに変化
◆アスリートのカミングアウトから考える
7月17日(土)午後8時~
性的少数者の人たちの意見に耳を傾けたことがありますか? カミングアウト(公表)してスポーツから変化を起こそうとしているサッカーの下山田志帆さんとラグビーの村上愛梨さん、支援したプライドハウス東京代表の松中権さん、日本スポーツとジェンダー学会の來田(らいた)享子会長と「できること」を考えます。
申し込みは募集ページ(https://ciy.digital.asahi.com/ciy/11004804)から。
◇これからの記者イベント、ご参加お待ちしています
一覧はこちら(https://www.asahi.com/eventcalendar)から…