(社説)雲仙・普賢岳 30年前の教訓をいまに

社説

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 長崎県の雲仙・普賢岳で大火砕流が発生してから、きょうで30年になる。

 死者は40人にのぼり、行方不明のままの人も3人。噴火の撮影ポイントにいた報道関係者16人と同行のタクシー運転手4人のほか、12人の消防団員や警察官、住民など、避難勧告に従わず取材する報道陣の警戒にあたっていた人が多く犠牲になった。メディアに重い教訓を残した災害でもある。

 現在、火山活動は落ち着いているものの、溶岩ドームの崩落や、山腹の土砂・火山灰による土石流発生の恐れなど危険な状態は続き、継続的な監視が欠かせない。惨事を繰り返さないためにどんな取り組みが有効か。そうした問いから現地で20年前に始まり、いまも続いているのが「防災登山」だ。

 九州大の研究者と地元自治体、警察、消防、報道関係者が一緒に、定期的に普賢岳に登る。研究者の解説を聞きながら溶岩ドームの状況を確かめ、情報と危機意識を共有する。「顔の見える関係」を深める機会になっている。

 防災教育などを通じてふだんから専門家と行政、住民が信頼関係を築いておく努力が奏功したのが、2000年の有珠山(北海道)噴火時の対応だった。火山活動活発化の兆候を察知した北海道大の研究者が地元の町に伝え、住民の素早い避難につなげた。

 14年の噴火で63人の死者・行方不明者が出た御嶽山(長野、岐阜県境)では、「火山マイスター」制度が生まれた。長野県が認定し、資格を得た人が連携して登山客らに火山防災の知識を伝えている。このような各地での実践を交換し、工夫を重ねていきたい。

 噴火から命を守る出発点は、避難計画の策定だ。御嶽山噴火の翌15年、国は活火山法を改正し、常時監視対象の火山周辺の190市町村に計画作りを義務づけた。だが、避難の経路や場所など必要な項目をすべて盛り込んだ計画があるのは7割にとどまる。自治体は火山周辺の建物などを避難促進施設に指定するよう求められたが、手続きが済んだのは半数に満たない。

 火山の研究者不足への対策も急務だ。文科省は大学と連携し16年度から「次世代火山研究者育成プログラム」を始めた。予算をしっかり確保し、息の長いプロジェクトにしていく必要がある。

 日本は111もの活火山がある、世界有数の火山国だ。御嶽山のケースのような水蒸気爆発はとりわけ予測が困難とされる。研究と観測、学びと避難を両輪として、防災・減災への備えを整えていきたい。

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