(社説)金融市場 点検と警戒を十分に

社説

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 コロナ禍の打撃とそこからの脱出への期待が交錯する中で、金融市場の一部で神経質な動きが続いている。ゆがみが過剰にたまっていないか、点検と警戒を強める必要がある。

 今月の米国市場では、長期金利の上昇やインフレ加速の懸念から、ハイテク株などが一時値下がりした。東京市場でも緊急事態宣言延長の動きが重なり、株安が進む局面があった。

 市場が新しい情報を織り込んで価格が動くこと自体は健全な調整だ。ただ、コロナ禍対応で各国が金融緩和財政出動を強めてきたこともあり、市場にはこの間、巨額の資金が流れ込んでいる。ここにきて局所的にではあれ、膨らんだ泡がはじけるような動きが目に付く。

 3月末に起きた米アルケゴス・キャピタル・マネジメントの破綻(はたん)は、取引先の日米欧の金融機関に1兆円もの損失を与えた。米富豪の個人資産を運用する「ファミリーオフィス」で、この富豪はインサイダー取引で摘発歴がある投資家だった。

 国内勢では野村ホールディングスが3千億円強の損失を公表。「個別性が強い非常に特殊なケース」としつつ、リスク管理の点検や米国子会社の経営体制の強化を図っているという。

 年初には、米国で広がった投資アプリ「ロビンフッド」を通じた個人投資の過熱で市場が混乱。最近では暗号資産(仮想通貨)が大きく値下がりし、株式市場に波及した。

 金融当局も一定の懸念を示している。米連邦準備制度理事会の報告書はアルケゴスに言及しつつ「ノンバンクの構造的脆弱(ぜいじゃく)性が、金融システムへのショックを増幅しかねない」などと指摘した。バイデン政権下の証券取引委員会は、調査や監視を強める方向に動くようだ。

 日本銀行が先月まとめた金融システムレポートは、国内金融機関と国外投資ファンドの保有資産の構成が似てきたため、海外発のショックが伝わりやすくなっていると注意を促す。

 金融機関が規制の範囲でリスクをとるのは民間企業として当然で、ときには失敗もある。だが「個別的」な案件の裏に同様のリスクが潜む場合も多い。自らの行為を十分に開示することが、行き過ぎを防ぐことにつながるだろう。

 コロナ禍による先行き不安はなお残り、政策の下支えは当面必要だ。その効果を行き渡らせるためにも、金融システムが揺らぐ事態は避けなければならない。「根拠なき熱狂」はいつも新しい装いで訪れるのが過去の教訓だ。システム全体に連鎖するような抜け穴が生じていないか。当局は目を光らせ、機敏に注意喚起するべきだ。

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