(社説)建設石綿被害 救済枠組みの確立急げ

社説

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 長い間苦しんできた人々に、すみやかに、公正で適切な救済策を講じなければならない。

 建材に含まれるアスベスト(石綿)を吸い込み、中皮腫肺がんなどの健康被害をうけた作業員らが全国で起こした裁判で、最高裁が国と建材メーカー各社の賠償責任を認めた。

 判決は国について、危険性を知りながら防じんマスクの着用義務づけなどの規制を30年近く怠ったと指摘。また法律上は労働者に当たらない個人事業主の「一人親方」も、労働安全衛生法で保護されるべき対象だと結論づけた。石綿が人体に及ぼす影響は、その人の法的立場が違っても変わらないとの考えに基づくもので、働く現場の実態に沿い、正義にかなう判断だ。

 メーカーは危険性を警告する表示をしなかった責任が問われた。石綿は静かな時限爆弾と呼ばれ、発症まで長い時間がかかる。いつ、どの製品を使ったことが病気の原因かを特定するのはほぼ不可能で、地裁や高裁では免責する判決もあった。

 これに対し最高裁は、共同して不法行為を行ったが、実際に損害を与えたのは誰だかわからない場合の責任について定めた民法の条文を柔軟に解釈し、被告各社に連帯して賠償する義務があるとした。被害の特性を踏まえ、企業の責任をうやむやにしなかった意義は大きい。

 判決を受け、菅首相は被害者や遺族と面会して謝罪。国と原告団は、まだ残っている裁判は国が被害者1人あたり最大1300万円の和解金を支払って決着させ、あわせて訴訟を起こしていない人のために補償基金を設けることで合意した。裁判手続きによらずに迅速な救済をめざす構想が、具体化に向けて動き出したことは前進だ。

 ただし大きな問題が残る。

 こうした救済枠組みに現時点で建材メーカーが加わっていないことだ。どの企業がどれだけの責任を負い、資金を出すかで調整が難航している。

 原因物質を使った製品で利益を上げてきた企業が、このまま背を向け続けていては、社会の理解は到底得られまい。石綿に関する警告を怠ったのは訴えられた企業だけではない。同じように製品を製造・販売したところは責任を受け止め、基金に相応の額を拠出するのが筋だ。

 メーカーが参加しなければ、被害者への補償水準は想定の半分にとどまり、本来の救済には遠い。政府は業界への働きかけを強めるとともに、協力を得られない間の補償のあり方についても別途検討を進めるべきだ。

 建築現場で働き、経済発展を支え、いま病に苦しむ人々の声に向き合い、問題の全面的な解決を急がなければならない。

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