(時時刻刻)「強く短く」効果どこまで 緊急事態、3度目宣言=訂正・おわびあり

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 短期集中で感染者の増加を抑える――。3度目となる緊急事態宣言について、菅義偉首相はそう決意を語った。ただ、2週間余りとされた宣言の期間に、専門家からは効果を上げるには不十分との見方が相次ぐ。東京、大阪の2大都市圏を中心に広がる新型コロナの猛威を、今回の宣言で食い止めることが出来るのか。

 ■「5本柱」「まん延防止」不発

 東京、大阪など4都府県への緊急事態宣言を決め、23日夜の記者会見に臨んだ首相は冒頭から謝罪を口にした。「再び多くの皆さまにご迷惑をおかけする。心からおわび申し上げる」

 2度目の宣言の全面解除を決めた3月18日、首相は会見で「再び宣言を出すことがないように対策をしっかりやるのが、私の責務だ」と語った。それから1カ月余りで、首相はまた宣言の決定に追い込まれた。

 コロナ対応をめぐる首相の「責務」は、これまでも果たされないケースが続いてきた。2カ月半にわたった2回目の宣言下では、首相は「1カ月で絶対阻止」などと決意を述べたが実現できず、延長に追い込まれるたびに謝罪した。2月末の大阪府など6府県に対する宣言の先行解除は、専門家らが変異株の脅威に懸念の声を示す中で決断した。その大阪はいま、医療崩壊の危機に直面する。3月の宣言解除時には、変異株の監視、医療体制の強化など対策の「5本柱」の徹底を掲げたが、道半ばのまま感染状況が悪化している。

 首相は「コロナ対応を最優先」と繰り返しながら、その対応が後手に回り批判を浴びてきた。野党からは「危機意識や当事者意識が希薄だとしか思えない」(枝野幸男立憲民主党代表)との批判が強まる。

 飲食への制限が中心の「まん延防止等重点措置」から、今回の宣言への切り替えも、自治体から突き上げられる形で進んだ。幅広い休業対象を求める知事たちとの間で調整に手間取った。官邸幹部は「経済とのバランスが重要だ」と語るが、「政権の対応に国民の理解が得られているのか」(閣僚経験者)との不満も漏れる。

 今回の宣言の期間には、宣言が始まる前から異論が出ている。政府高官は「強い制限を伴う措置だから短期間にとどめたい」と、17日間の妥当性を強調する。出口を明確にすれば、国民の協力も得られやすいとの見方も示す。

 首相の責務が果たされない例が続き、国民の「自粛疲れ」も広がる。「改めて国民感情にどう向き合い、協力を求めていくのか」。23日夜の会見で問われた首相は、こう繰り返した。「制約を強いられる結果になったことについて、大変申し訳なく思う。ぜひもう一度、ご協力をお願いしたい」(西村圭史、笹井継夫)

 ■大阪、期間に不満も/東京、着々と根回し

「人流の抑制」に強い対策が必要として、緊急事態宣言を求めた大阪府。吉村洋文知事は23日、記者団に「(府の提案の)かなりの部分が対策に反映された」と語った。

 大阪府は大型施設への休業のほか、飲食店には酒の提供を自粛した上で時短営業や休業を要請できるようにすることを政府に提案していた。

 ただ、吉村氏には「3週間から1カ月程度」と主張していた宣言期間が短くなったことに不満もにじむ。「(宣言の期限の)11日時点でも大阪の医療体制はかなり逼迫(ひっぱく)した状況が続いている」と繰り返した。

 1度目の宣言が出た昨春は、休業要請の対象施設を巡って政府と激しい攻防を展開した東京都。だが、今回は政府と都の目立った対立はなく、小池百合子知事は政府や与党幹部に着々と根回しを重ねた。

 都関係者によると、小池知事は20日、コロナ対策を担当する西村康稔経済再生相と電話で会談。同じ日に公明の山口那津男代表や自民の二階俊博幹事長を訪ねた。21日夜に要請する直前には、犬猿の仲とされる菅義偉首相にも電話して都内の感染者数の推移や病床について説明した。

 対決姿勢を見せた1年前と打って変わった背景には、先に大阪で広がった感染力が強い変異株への危機感がある。大阪では、若者でも重症化するリスクがみられ、小池氏は会見で度々、大阪の感染状況に言及し、大都市圏への往来をやめるよう都民に求めていた。(久保田侑暉、軽部理人

 ■人流抑制へ、広く休業要請

 今回、対策の柱としたのが人の流れの抑制だ。酒類やカラオケを提供する飲食店や大型施設などに休業を要請。要請の範囲は学校が休校になった1回目よりは狭いが、飲食店への営業時間の短縮要請が中心だった2回目よりは広くなった。だが、厳しい感染状況の中で「17日間」と期間は短く、どこまで効果があるのか専門家の間では懐疑的な声が多い。

 内閣官房のまとめによると、21日時点で重症者用の病床の使用率は大阪84%、兵庫74%と、最も深刻なステージ4の「50%以上」を上回るなど、深刻な状態にある。東京は33%だが、予断を許さない状況だ。

 政府の22日時点のまとめでは、ワクチン接種は医療従事者のうち2回目までを終えたのは、約84万9千人で、対象者の18%。12日に始まった高齢者で1回目を終えたのは約5万1千人と0・1%にとどまる。

 さらに1、2回目の宣言と大きく異なる点がある。変異ウイルスという新たな脅威の存在だ。

 国内で広がる英国型の変異株は、従来のウイルスに比べて感染力が1・36~1・75倍になるとされる。死亡率が1・64倍になるとの論文も発表されている。患者が増えることで、医療現場には大きな負担となる。

 ベッドの確保には時間がかかり、ワクチンも十分に行き渡らない状況で、感染者数を減らすには、当面は人の流れを抑えるしかない。だが、実効性は見通せない。

 東京都医学総合研究所の資料によると、1回目の宣言の1カ月前後で、東京都内の主要繁華街の夜の人出(午後8~10時)は最大で83%減り、解除時の都内の1週間の感染者数は93人まで減った。これに対し、2回目の宣言の1カ月前後では最大56%減にとどまり、都内の1週間の感染者数は2400人と下がりきらない中での解除となった。

 ■17日間、専門家は懐疑的

 今回は2回目よりは強い対策をとるが、懸念されるのは、17日間という期間だ。一般的に感染対策の効果は2週間ほどたってあらわれるとされる。2週間あまりで、変異株も広がる中、感染状況を収束に向かわせることは可能なのか。

 政府の基本的対処方針分科会のメンバーの一人は、解除するには感染状況などがステージ3のレベルにまで下がり、ステージ2に向かう方向になっていることが必要との考えを示す。東京の場合は23日には700人を超えた1日の新規感染者数が500人を切り、100人以下にする必要があるとし、「これから2週間ぐらいはまだ感染者数は上がるだろう。(期間の)5月11日までに500人より下げるのは難しいのではないか」。効果が出るには1カ月はかかるとみる。

 別のメンバーは、連休中は検査数も少なくなるため、感染状況を正確に把握することは難しい、と指摘する。今回の対策については「いま考えられる措置としては強いものを盛り込んだという理解だ」としたうえで、「大事なのは出口。設定した日になれば無条件に解除するというようなことには決してならない。それは分科会の全員の共通認識だ」とくぎを刺す。

 東京慈恵会医科大の浦島充佳教授(予防医学)は「宣言を出せば効果があるとはかぎらない。改善がみられなければ、政府の対策には効果がないというレッテルが貼られ、信頼が損なわれるおそれがある。政府は対策の科学的根拠をデータできちんと示し、うまくいかなかったときのシナリオも用意するべきだ」と指摘する。(石塚広志、阿部彰芳、市野塊)

 <訂正して、おわびします>

 ▼24日付総合2面「『強く短く』効果どこまで」の記事につく表「4都府県の医療提供体制の状況」で、「10万人あたり新規感染者数の1週間平均」とあるのは、「10万人あたりの1週間の新規感染者数」の誤りでした。2月3、8、25日、3月3、14、18日、4月1日付朝刊に掲載した表にも同様の誤りがありました。内閣官房の資料を転記する際に間違え、確認が不十分でした。

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