(社説)案里議員辞職 目に余るモラルの低下

社説

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 陣営の選挙違反疑惑が報じられてから1年3カ月。国民に向けた、まともな説明は一切ないまま、当選無効による失職が濃厚という段になって、ようやく政治責任をとると言われても空々しい。政治への信頼を傷つけた罪は重く、選挙戦で異例のてこ入れをした自民党の責任も厳しく問われねばならない。

 一昨年の参院選広島選挙区での大規模買収事件をめぐり、公職選挙法違反の罪で一審有罪判決を受けた河井案里被告が参院議員を辞職した。控訴も断念し、有罪が確定する。

 夫で元法相の克行被告は、地元の議員や首長ら100人に計約2900万円を配ったとして別途公判が進む。案里前議員は夫と共謀して、このうち4人に160万円を渡したと認定され、懲役1年4カ月執行猶予5年が言い渡されていた。

 案里前議員は1枚紙のコメントを出しただけで、記者会見などで疑問に直接答えることはなかった。夫の裁判を理由にあげたが、最後まで説明責任から逃げ回ったと言うほかない。

 案里前議員は当時の安倍首相菅官房長官の肝いりで擁立され、自民党本部から、同じ選挙区で落選した現職の10倍にあたる1億5千万円の活動資金が提供された。自民党も河井夫妻も書類が押収されていることを理由に、その使途を明らかにしていないが、大半が税金を原資とする政党交付金であり、到底納得できるものではない。

 自民党の二階俊博幹事長は、案里前議員が「自ら判断し、けじめをつけた」などとする短いコメントを出したが、人ごと過ぎる。既に離党したとはいえ、党に所属していた際の政治倫理にかかわる行いである。党としてきちんと調査し、責任をとらせるのが筋ではないか。

 昨年末、健康を理由に議員辞職した吉川貴盛・元農水相は、その後、在任中の収賄の罪で在宅起訴された。今週初めには、公明党の幹事長代理だった遠山清彦衆院議員が、緊急事態宣言下の深夜に東京・銀座のクラブを訪れていたことを厳しく批判され、議員を辞職した。

 わずか1カ月半の間に、3人の国会議員が職を辞す。極めて異例の事態である。「選良」という言葉は死語になったといわれて久しいが、モラルの低下は目を覆うばかりだ。

 安倍前首相が虚偽の説明を重ねていた「桜を見る会」の前夜祭の費用補填(ほてん)をめぐる疑問も、いまだ解消されていない。野党が求めるホテルの明細書や領収書の提出を、安倍氏は拒んだままだ。菅首相は相変わらず、安倍氏は説明済みとかばい続けるが、そんな姿勢では与党への信頼を失うだけだろう。

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