(社説)税制改正大綱 格差の是正を忘れるな

社説

[PR]

 政府・与党が来年度税制改正大綱をまとめた。柱は、消費増税対策で導入した負担軽減策を軒並み延長したことだ。来年4月末にかけて順次期限を迎えることになっていた。

 住宅ローン減税税額控除の期間を13年間にする特例措置と、自動車重量税エコカー減税はともに2年間、車両購入時にかかる自動車税の環境性能割の軽減措置も9カ月間、予定より長く続ける。

 固定資産税でも、地価が上昇した土地の評価額を据え置き、来年度の税額を今年度と同額にとどめる。

 コロナ禍で収入が減った国民は多く、感染状況の先行きも見通せない。負担増の回避を優先した今回の判断は理解できる。

 ただ、その代償として、税がもたらす社会経済のひずみの解消や財源確保といった、税制改正の本来の役割は半ば放棄されてしまった。政府・与党は、多くの宿題を残したことを自覚しなければならない。

 取り組むべき課題の一つは、コロナ禍で深刻さがより鮮明になった格差への対応である。

 株式の配当などの金融所得への課税は、富裕層にとって給与所得よりも税率が低く、税の格差是正機能をゆがめてきた。しかし株価への影響を恐れ、課税強化の議論すら避けているのが現状だ。いつまでも先送りを続けるわけにはいかない。土地の売却益などを含めた資産課税全体の見直し案を、早期に固めることが求められる。

 コロナ禍で加速した働き方の多様化への対応も重要だ。

 フリーランスら個人事業主は給与所得控除が原則受けられない。退職金への課税も勤続20年を超えると控除額が急増する。大綱は「働き方によって有利・不利が生じない公平な税制の構築」を掲げた。個人事業主の所得の捕捉を改善しつつ、控除の在り方を見直すべきだ。

 菅政権が掲げる脱炭素社会の実現に向け、今回の改正では、企業に省エネ投資を促す優遇税制が盛り込まれた。しかしそれでは不十分だ。市場メカニズムを使って産業の転換を誘導することが欠かせない。二酸化炭素の排出に課す炭素税は、排出削減を促すとともに、研究開発の支援策などの財源確保にもつながる。導入の検討を急がねばならない。

 相次ぐ経済対策もあって、財政状況は悪化するばかりだ。欧州連合(EU)は、コロナ対策の財源としてデジタル課税などを検討している。国債の償還財源をどうまかなうのかという重い課題から、日本も逃げ続けるわけにはいかない。感染動向を踏まえたうえで、議論を始めるべきだ。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【締め切り迫る】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら