地震、台風、豪雨などの自然災害が頻発している。国民の生命や財産を守る対策の強化は、政府の責務だ。

 ただ、防災・減災を口実に、必要性の乏しい公共事業まで行うことは許されない。菅首相が先週、策定を閣僚に指示した国土強靱(きょうじん)化の長期対策は、いたずらに費用が膨らむのではないかとの懸念が募る。

 今後5年間の事業規模は15兆円程度という。今年度末までの3カ年対策の計7兆円程度から大幅な上積みである。

 政府は、2018年の西日本豪雨や台風の被害を受け、全国の重要インフラを総点検した。その際に判明した強度不足や停電対策の不備などに対応するための経費として積み上げたのが、現対策の7兆円だ。

 新対策の15兆円は、政府関係者によると、現場の問題点に基づいて積算した金額ではないという。与党の要求額を丸のみしたのが実態ではないか。

 応急措置だった現対策と違い、新対策は中長期的な視点から行うという。事業の対象も、軸としていた既存インフラの改修から、工期がより長いダムや堤防の新増設に広げる。

 事業規模を満たすために使途を拡大し、単に公共事業が膨張する結果に終わるようでは困る。それぞれの事業をなぜ、いまやるべきなのか。政府は根拠を具体的に示し、国民に説明しなければならない。

 計画的なインフラ整備は必要だろう。だが、長期にわたる事業費を事前に決める手法は、「総額ありき」となって、個々の事業内容の精査がおろそかになる危うさも抱える。

 公共事業は03年に、長期計画には原則として事業費を盛り込まず、代わりに「公共土木施設の耐震化率」などの成果指標を掲げる手法に転換した経緯がある。事業の進め方を「先祖返り」させてはならない。

 建設業界は人手不足が深刻化しており、予算を急に増やせば、工事費の高騰や完成の遅れを招く恐れがある。政府は「15兆円」にこだわらず、いま本当にやるべき事業にしぼることが求められる。

 ダムや堤防などのハード面の対策には、際限が無い。緊急性や費用対効果を見極め、優先順位をつけて取り組むべきだ。同時に、避難態勢の強化や河川周辺の土地利用の見直しといったソフト面の対策にも、力を入れることが欠かせない。

 コロナ禍もあって、国の財政は危機的な状況にある。将来になって維持費がかさむ新規事業の実施は、慎重に検討しなければならない。財源についても、既存の公共事業を見直すなど、捻出の努力が必要である。