(社説)はやぶさ2帰還 強みを生かし、着実に

社説

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 コロナ禍のなか久しぶりに光明を見た思いの人も多かったに違いない。周到な準備と技術の蓄積、そして柔軟な対処能力を感じさせた6年間の旅だった。

 探査機はやぶさ2から、小惑星リュウグウの砂が入っているとみられるカプセルの回収が無事終わった。本体は新たな任務のため別の小惑星に向かった。

 トラブル続きだった初号機と違い、初の人工クレーターの作製にも成功するなど、計画は順調に推移した印象が強い。だが難しい判断も迫られた。

 ハードルの一つ、リュウグウへの着陸では、平坦(へいたん)な場所が見つからず、想定外の高精度な降下が要求された。最初の着陸に成功した後、2回目に挑むか、強い慎重論があったという。

 強行して機体が損傷すれば、帰還できなくなる恐れがある。それを抑えて実行に踏み切った背景には、シミュレーションを数百万回繰り返すことで培った自信があった。初号機の経験を受け継いだ若い世代が、チームを引っ張った。

 いま天体からの試料採取で大国がしのぎを削る。今月初めに中国の探査機が月への着陸に成功した。火星をめぐっても米中両国の競争が激化。米国は10月にはリュウグウとは別の小惑星への着陸も果たした。

 日本は技術の優位性と経験を生かして、こうしたプロジェクトを先導できる立場にある。

 宇宙基本計画の工程表には、はやぶさ2の後継として火星の衛星から試料を持ち帰る探査機の打ち上げを24年度に行うと明記されている。欧米諸国と協力して進める。宇宙探査における国際協調は、近年その重要性をさらに増している。費用負担を減らしつつ、各国の特徴を生かした、単独ではなしえない試みが可能となるからだ。

 そのためにも、国民の理解の下、長期戦略を掲げて予算を確保し、人材を育成していくことが肝要だ。はやぶさ2計画も、初号機の「奇跡の生還」がなければ、頓挫していた恐れがあったことを忘れてはならない。

 今回持ち帰られたであろう試料は、分析のため国内外の研究機関に渡される。太陽系の成り立ちや生命の起源に迫る研究の進展に期待したい。国境を越えてネットワークを広げることが重要だ。違う背景を持つ人が集まれば、互いの刺激となり、また新たな発想が生まれる。

 画期的な発見があっても、直ちに生活を便利にしてくれるわけではない。だがイノベーション(技術革新)は、人類の共通財産というべき地道な基礎研究の積み重ねの上に生まれる。取り組んでいる研究の意義や魅力を積極的に社会に発信することも、関係者の大切な務めだ。

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