政府がようやく、旅行や飲食業界への支援策「Go To」事業を見直すことになった。

 札幌市と大阪市を目的地とする旅行を3週間、トラベル事業の対象から除外する。イート事業でも、コロナ感染が急拡大する自治体で、食事券の新規発行を中断する。

 「Go To」はそもそも4月の閣議決定では、感染収束後に実施することにしていた事業である。それを政府は7月に見切り発車した。ただ、条件は「状況を的確に判断し、臨機応変に対応する」(西村康稔担当相)ことだったはずだ。

 ところがである。秋に入って感染が急拡大しても、「すでに予約も入っており、今から変更することは難しい」(西村担当相)と、見直しを拒んできた。これでは約束が違うではないか。専門家でつくる政府分科会の提言に背中を押されてやっと動いたが、あまりに反応が鈍いと言わざるを得ない。

 見直しの内容にも、理解に苦しむ点が少なくない。

 例えば、札幌、大阪両市を出発地とする旅行は、割引対象のままにした。札幌市民に不要不急の市外への移動自粛を呼びかける北海道の取り組みと、明らかに矛盾している。「医療現場が逼迫(ひっぱく)していない地域への旅行を抑える必要は無い」という観光庁の説明を聞いても、納得できない人が多いだろう。

 イート事業では、既に発行した食事券やポイントの使用は停止せず、利用者に自粛を呼びかけている。「システムとして対応が難しい」(野上浩太郎農林水産相)と言い訳をするが、感染拡大は当初から想定された事態である。「事業の実行ありき」でシステムをつくった責任は免れない。

 厚生労働省の専門家組織が感染拡大を懸念する4都道府県のうち、東京と愛知では、トラベル事業の見直しが決まっていない。政府関係者からはここ数日、見直しは各知事の判断次第だとする声が聞かれた。自治体の意向は尊重されるべきだが、最終責任は事業を設計した政府が負う。政府と自治体は情報の共有と意思疎通を密にし、協力しなければならない。

 コロナ禍が長期化するなか、はっきりしてきたのは、今後の感染状況を予想することが極めて難しいことだ。事態に変化の兆しがあれば、機敏に方針を見直す必要がある。

 政府は、12月にもとりまとめる追加経済対策で「Go To」の延長を検討しているが、状況に応じて運営方法を見直せないようでは、国民の理解は得られまい。旅行や飲食業者への支援策は、直接的な助成も含めて幅広く検討し直すべきだ。