(社説)多国間外交 国際協調の基盤として

社説

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 東南アジア諸国連合ASEAN)関連首脳会議に続き、アジア太平洋経済協力会議APEC)首脳会議、G20サミットなど、いずれもテレビ会議方式だったが、菅首相にとって初参加となる国際会議が続いた。

 首相は先の所信表明演説で、日米同盟を基軸としつつ、新型コロナ対応などを例に、国際連携の強化、多国間主義の推進を掲げた。地域や世界の安定に資する国際協調に向け、積極的な役割を果たしてほしい。

 一方で、菅政権のこれまでの外交で目立ったのは、中国を念頭に置いた、関係国との安全保障分野での協力強化だ。

 先週は、来日した豪州のモリソン首相と会談。日豪関係を「特別な戦略的パートナーシップ」と位置づけ、安保・防衛協力を「新たな次元」に引き上げるとする共同声明を発表した。

 具体的には、自衛隊と豪軍が共同訓練を行う際、相互訪問を円滑にする協定に大枠で合意したほか、自衛隊が安全保障関連法に基づいて他国軍の艦船などを守る「武器等防護」の対象に豪州を加える方向を確認した。

 コロナ対策のため、帰国後2週間の隔離を余儀なくされるにもかかわらず、モリソン氏が来日したのは、南シナ海の軍事拠点化を進め、南太平洋の島国への影響力も強める中国への強い警戒感からだろう。

 共同声明で、中国との名指しは避けながらも、南シナ海や東シナ海の状況に「深刻な懸念」を表明したのは当然だ。ただ、同盟に準じるような軍事への過度な傾斜は、かえって緊張を招く恐れも否定できない。

 「米国第一」のトランプ氏から、国際協調を重視するバイデン氏へと大統領は代わるが、米中対立の構造は根深く、覇権争いの行方は不透明だ。日本としては、米国に一貫性のあるアジアへの関与を求めつつ、地域の安定につながる多国間協力を模索する必要がある。

 民族や宗教、政治体制が多様で、利害が複雑に入り組むアジアの現状を見据えれば、北米、欧州、中央アジア諸国が加盟する欧州安保協力機構(OSCE)もひとつの参考になろう。敵味方を鮮明にせず、対立する相手も取り込んで、信頼醸成や、紛争を防ぐ予防外交などに取り組む協調的安全保障といわれる取り組みである。

 アジアにも94年からASEAN地域フォーラム(ARF)という枠組みがあり、日米韓、中ロ、北朝鮮も参加している。これまでの活動に限界があったことは事実だが、機能強化の手立てを考えるべき時だ。

 米中対立をいかに制御し、協調を通じて地域の安定を維持するか。日本外交の挑戦である。

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