(社説)地銀への支援 疑問が多い日銀の手法

社説

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 地域経済にとって、地方銀行など地元の金融機関が果たす役割は大きい。コロナ禍を乗り切るためにも、そこへの公的な支えは必要だ。だが、手法は適切でなければならない。

 日本銀行が、地域金融機関を支援する制度を設ける。地域経済を支えながら経営基盤強化に取り組んだ地銀などに対し、その銀行が日銀の口座に積んでいる当座預金の金利を、年率0・1%分上乗せするという。今年度から3年間の時限措置で、すべての地銀・信金がこの制度を使えば、合計で年間500億円程度の規模になる。

 要件は、粗利益に対する経費の割合を3年間で4%以上下げるか、経営統合などで経営基盤の強化を図ることである。実績を確認しながら支援し、利用した銀行名は公表するという。

 地域金融機関の経営環境は厳しさを増している。人口減少や地域経済の低迷が続くうえ、当の日銀の金融政策を含めた世界的低金利で、利ざやがとれなくなった。加えてコロナ禍だ。

 すでに金融機能強化法改正で公的資金注入の枠組みが継続・強化され、地銀の統合や合併を独占禁止法の適用除外とする特別法も成立した。金融システムの安定は経済の重要な礎であり、その維持に万全を期し、さらなる政策手段に工夫を凝らすこと自体に異論はない。

 だが、日銀の制度は、条件付きとはいえ一部の企業への補助金に近い性格を持つ。必要ならば、国会での議論を経て決まる財政支出で対応すべきではないか。一方で政府は地銀などの統合促進のため、システム投資への補助金を出す方針といい、合わせて議論するのが筋だろう。

 通貨を自由に供給できる中央銀行には、金融危機の際に「最後の貸し手」となることが期待されている。しかし、今は直ちに危機が顕在化する状況ではない。そもそも危機時の特別融資でさえ、日銀は一定の厳格な条件を課してきたはずだ。

 しかも、今回支援に用いようとしている日銀当座預金の金利水準は、物価安定のための金融政策の主要な手段でもある。日銀自身が、マクロ経済政策のために一部はマイナス金利に引き下げることが必要と判断してきたのではないか。その金利を部分的にではあれ逆方向に上げるのであれば、政策の整合性や信頼性に疑問符が付く。

 にもかかわらず、新制度は金融政策にはあたらないとされているため、現状では決定過程が不透明だ。日銀は最低限、金融政策決定会合で十全な議論を尽くし、総裁が説明責任を果たす必要がある。それ抜きには、中央銀行としての将来に禍根を残しかねない。

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