(社説)中国と香港 「一国二制度」を壊すな

社説

 香港の自治と民主主義が窒息させられようとしている。自由を誇った都市社会を中国流に塗り替える暴挙が、またも重ねられてしまった。

 香港の立法機関である「立法会」の議員の資格について、新たな縛りが加えられた。決めたのは、中国の全国人民代表大会の常務委員会である。

 中国は香港に「高度の自治」を保障する、というのが対外的な約束だ。ところが今回、立法会の議員資格を奪うことができる条件を大きく広げた。

 反政府的な言動を取り締まる国家安全維持法に続き、「一国二制度」を形骸化させるものであり、断じて容認できない。

 立法会は自由な言論空間を支える重要な場だった。親中派が多数を占めるが、民主派との間で開かれた議論が進められ、時には重要法案が廃案に追い込まれることもあった。

 中国から見れば、それが不満だったということだろう。

 今回の「決定」には、議員の資格失効の条件として、香港に「忠誠」を尽くすという要求に従わない▽国家の安全に危害を与える――などが並ぶ。あいまいで恣意(しい)的な判断が可能となる内容が多い。

 これでは政府への抗議や異議表明など、民主派が行ってきた多くの活動が失効の根拠にされる恐れがある。議会の運営自体も変わるだろう。

 民主派議員の多くは市民の直接投票による選挙で選ばれている。その政治的な言動を理由に資格を一方的に奪うのは、思想弾圧であり、民主主義を真っ向から否定する行為である。

 立法会をめぐってはこれまでも、選挙への立候補の資格審査で民主派を排除する動きが進められてきた。今年の秋に予定された立法会選挙がコロナ禍を理由に1年後に延期されたのも、民主派の勢いをそぐ狙いがあったとの見方が根強い。

 共産党政権としては、まさに香港の民主派の運動を沈黙させたいということらしい。

 「決定」を受けて、香港政府は民主派議員4人の資格剥奪(はくだつ)を宣言した。これに抗議して、多数の民主派議員が辞職届を提出したという。このままでは立法会は大半が親中派の構成になり、中国の意向にそった法整備が加速するとみられる。

 日本政府や欧米諸国からは、懸念の表明が相次いでいる。共産党政権は強硬姿勢を崩していないが、国際的な世論の圧力を強める必要がある。

 対外公約や「法の支配」を無視するような中国の姿勢を座視すれば、その影響は周辺地域と世界に及ぶ。日本を含む各国とも、香港の現状を自らの問題ととらえねばなるまい…

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