(社説)緊急避妊薬 女性を尊重する視点で

社説

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 政府は、医師の処方箋(せん)がなくても緊急避妊薬を薬局で買えるようにする制度改正を検討している。来年度からの男女共同参画基本計画に盛り込む考えだ。

 望まない妊娠を防ぎ、女性の人権を守ることにつながる。速やかな実施をめざすとともに、性や避妊について社会全体で認識を深める機会としたい。

 緊急避妊薬は排卵を抑えたり遅らせたりすることで、性交から72時間以内に服用すれば高い確率で妊娠を回避できるとされる。90カ国以上で処方箋なしで入手できるが、日本では11年の承認後も「事後に薬を飲めばいいという認識が広がり、無責任な性行為を増やしかねない」などの理由で見送られてきた。

 だが産婦人科医らによると、緊急避妊の主な理由は、コンドームの破損・脱落や低用量ピルの飲み忘れといった、日常的に起きる手違いが多い。服用が早いほど効果があるのに、近くに適当な病院がない、夜間や休日で診察を受けられないなど、実際に薬を手にするまでに高い壁があることを、市民団体などが以前から指摘している。

 薬を求める人の中には性暴力の被害を受けた女性もいる。警察や支援センターに相談して早期に処方を受けるルートはあるが、心身に傷を負った女性が、直ちにそうした機関に連絡をとれるとは限らない。

 予期しない妊娠がもたらすダメージは女性に偏る。18年度の人工妊娠中絶件数は16万件で、10~20代が半数を占めた。肉体的、精神的、経済的いずれの観点からみても、緊急避妊の方が負担が軽いのは明らかだ。

 世界保健機関は「意図しない妊娠のリスクを抱えたすべての女性には、緊急避妊にアクセスする権利がある」として、家族計画や健康に関する政策に採り入れるよう各国政府に勧告している。女性の体を守り、それぞれの生き方を尊重していくうえで、日本もこれ以上対応を遅らせるべきではない。

 ただし、薬局で販売できるようになっても、薬剤師の関与と指導は欠かせない。また、服用しても妊娠する可能性は残る。状況に応じて専門家の診断や助言を仰ぐ必要がある。

 あわせて認識すべきは、この薬はその名のとおり、あくまでも緊急手段にすぎないということだ。継続的な使用は想定されていないし、性感染症の予防策にもならない。ふだんから避妊の重要さとその方法を正しく知り、実践することが肝要だ。

 そのためにも、他の先進諸国に比べて遅れが目立つ性教育の充実に力を入れなければならない。自分も相手も大切にする。その基本があってこその緊急避妊薬の「第2の解禁」である。

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