(社説)国産旅客機 挫折の経緯、説明を

社説

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 三菱重工業が、国産初の小型ジェット旅客機「スペースジェット(SJ)」事業を事実上中断する。

 来年度からの3年間の開発費を、過去3年間の20分の1の計200億円に圧縮する。商業飛行に不可欠な「型式証明」取得のための文書作成は続けるというが、肝心の試験飛行は見合わせる。初号機は予定していた21年度をめどに納入ができなくなるが、新たな目標は設けない。

 プロペラ機YS11以来、半世紀ぶりの国産旅客機開発への挑戦は、まさに瀬戸際に立ったと言えよう。

 コロナ禍で旅客需要が蒸発するなか、経営難に直面する世界の航空会社には当面、新たな航空機を購入する余裕は無い。24年度以降と見込む航空機市場の回復を見極めて、事業を再開するかを決めるという。

 コロナ禍が収まっても、採算がとれるかは不透明だ。

 もともと小型機は利益が小さく、コロナ前から競合他社では事業を売却する動きが相次いでいた。そのうえ世界的なテレワークの普及などで、航空業界は将来を見通しにくい。

 しかもSJは事業の遅れで戦略に狂いも生じている。開発を本格化した08年当時は13年に納入を始める予定だったが、設計変更などで6回も延期した。もたつく間に、ブラジル・エンブラエルが同じ米社製の最新鋭エンジンを搭載した新型機の納入を開始。ライバルに先立って低燃費の機体を開発するという当初の見込みは外れた。

 遅れの背景には、自社の技術力を過信し、社外のノウハウを十分に活用できなかったことがある。将来、事業を再開するのであれば、どのような体制で臨むのか。抜本的な見直しが求められるだろう。

 三菱重工はこの事業に、7千億円超の開発費をつぎ込んできた。再開が難しい場合でも、これまでの成果を別の事業などにどう生かすのか、知恵が試されることになる。

 約100万個の部品で構成される航空機の製造は、多くの部品メーカーの協力の上に成り立っている。中には量産に向けて投資に踏み切った企業もある。損失はだれがどう負担するのか。三菱重工は誠実に話し合いに応じるべきだ。

 テレビや半導体などの電機産業が国際競争力を失う中、自動車に続く新たな製造業の柱を育てようと、政府はSJの基礎研究に500億円を投じてきた。航空機産業が集積している愛知県などの自治体も、独自支援を続けている。税金を投入した事業が中断した以上、政府や自治体は、経緯や原因について、説明を尽くす必要がある。

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