菅首相が「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」との方針を示した。政府は地球温暖化対策の強化を急ぐことにしている。

 焦点は原発の取り扱いだ。

 原発は発電時に二酸化炭素を排出しないため、積極的な活用を求める声が早くも出始めた。だが、排出削減を口実に、さまざまな問題を抱える原発に依存し続けることは許されない。

 「徹底した省エネ、再エネの最大限の導入に取り組み、原発依存度を可能な限り低減するのが政府の方針だ」。排出削減の進め方について、首相は衆院本会議で、そう答弁した。

 気がかりなのは、同時に「原子力を含めてあらゆる選択肢を追求していく」とも述べたことである。「50年に実質ゼロ」のハードルは高いため、原発を活用していく必要があるとの考え方を示したといえよう。

 今後、既存の原発が寿命を迎えて引退していくのを懸念してか、自民党内では新設を求める声もあがっている。今のところ菅政権は「原発の新増設や建て替えは想定していない」(加藤官房長官)と慎重だが、今後もその姿勢に変わりはないのか。この際、中長期的な原子力政策を明確に示してもらいたい。

 福島の事故を受け、朝日新聞は将来的には原発に依存しない社会をめざすべきだと主張してきた。古くなった原発から順次止めて徐々に減らし、事故リスクをなくすという考え方だ。

 脱原発は経済性の面でも理にかなっている。

 朝日新聞の調査では、事故後の安全対策費が電力11社の合計で5・2兆円を超え、今後さらに膨らむ見通しだ。1基あたりの費用は、再稼働した5原発9基では1400億~2300億円にものぼる。

 対照的に再エネの発電コストは下がっており、原発を減らしながら太陽光や風力を広げていくというのが合理的だ。

 開発が進む小型モジュール炉(SMR)は、安全性やコストで現在の原発の欠点を補うともいわれる。だが、「50年に実質ゼロ」は、今後10年間で温室効果ガスを大幅に削減できるかが鍵を握る。普及の時期が定かでない新技術に期待し、時間を浪費するわけにはいかない。

 忘れてならないのは、どんな原発にも最終的には、「核のごみ」の処分という問題がつきまとう点だ。高レベル放射性廃棄物の最終処分地をめぐって北海道の2町村で文献調査が実施される見込みだが、問題の解決には長い年月がかかる。

 脱炭素と脱原発を両立しながら気候危機対策を進めていく。それこそ進むべき道であることを、菅政権は認識するべきだ。