(社説)食品ロス削減 飽食の国ですべきこと

社説

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 まだ食べられるのに捨てられてしまう食べ物をなくそうと、食品ロス削減推進法が施行されてちょうど1年になる。同法は10月を「削減月間」と定め、趣旨にかなう事業の実施を国や自治体に義務づけている。

 折しも今年のノーベル平和賞国連世界食糧計画WFP)に贈られることが決まった。改めて「食」への関心を高め、無駄の排除に向けた取り組みを強化する契機としたい。

 国内の食品ロスは減少傾向にあるとはいえ、年間612万トン(17年度)にのぼる。事業系と家庭系がほぼ半分ずつを占め、国民1人当たりにすると48キロになる。飢餓に苦しむ人々に向けたWFPの食料援助量の1人平均43キロ(19年)を上回り、試算では世界6位、アジアで1位という不名誉な地位にある。

 コロナ禍によって外食産業が落ち込み、事業系のロスの総量は減ると見込まれるが、それは本来めざした姿ではない。行き場を失った生鮮食品が廃棄される現象も各地で起きた。さらに「巣ごもり」に伴って、家庭での食べ残しや食材の使い残しが増えるとの懸念もある。

 ロスを減らすための、さらなる深掘りが必要だ。

 例えば食品業界の「3分の1ルール」の見直しである。

 賞味期限が6カ月の場合、製造から2カ月までを小売店への納品期限、4カ月までを販売期限とする商慣行で、それを過ぎると返品―廃棄にまわる。大手スーパーやコンビニで緩和の動きが進むが、そもそもは賞味期限が近い商品を嫌う消費者の志向にあわせて生まれたものだ。業者だけでなく、買う側の意識改革が求められる。

 飽食と無駄の裏側で、食べ物に困る人々が国内にも大勢いる現実を忘れてはならない。

 コロナ禍で経済活動が滞り、生活困窮者が増えるいま、消費されない食品を、それを必要とする家庭や施設に提供する「フードバンク活動」の重要性は一層大きくなっている。

 NPOなどでつくる全国フードバンク推進協議会によると、需要は例年の5割増しなのに、物資も、届ける人手も足りない団体が多く、要請に応えきれない状態が続いているという。

 推進法も、食品ロスと貧困問題の双方の解決に資するこの活動の意義を認め、国・自治体に必要な施策をとるよう定めている。配送費や人件費の補助、関係団体との日頃からの連携強化に力を注いでもらいたい。

 日本は食料の多くを輸入に頼る。「もったいない」の思いを共有し、困っている人がいれば分かち合う。生きてゆくための基本である「食」を大切にする社会を築かねばならない。

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