■ニュースワイド

 公務をしているのに不安定で処遇が悪い「官製ワーキングプア」が増えています。コロナ禍で働き方がますます厳しくなっています。(高橋美佐子、内藤尚志、編集委員・沢路毅彦)

 ■ハローワーク、おびえる相談員

 全国のハローワークにはコロナ禍の影響を受けた働き手や企業の担当者が集まる。失業手当や雇用調整助成金といった国の支援制度を利用するためだ。困った人のセーフティーネットの役割を果たす国の機関だが、職員には非正規の人がめだつ。

 関東地方のハローワークの40代女性は4月以降、感染リスクにおびえる。指示された業務は館内の美化清掃だ。窓口で机や椅子を消毒液でぬぐい、ゴミ箱のペットボトルや空き缶などを分別する。不用な書類をシュレッダーにかけ、裁断したものを収集所へ運ぶのも日課だ。

 窓口対応の相談員には布マスクが1枚ずつ配られた。でも、女性は「来所者とは対面しないパートだから」という理由でもらえなかった。上司の家族が発熱してPCR検査を受けたという情報も正職員だけに伝えられた。女性が知ったのは1週間後。「私はいつも蚊帳の外。もし感染したら保証はあるんでしょうか」

 時給1200円ほどで年収百数十万円、採用は1年ごとで、毎年更新されるかどうかわからない不安定な立場だ。そんな状況を来所者は知るよしもなく、いらだちをぶつけられることもある。失業中だという男性に「給料を俺にくれ!」と迫られたときは、ひたすら謝った。「私だって来年働けているかわからない」と女性は嘆く。

 東日本のハローワークで数年前から相談業務をする40代女性も不安を感じている。職場の相談員の9割は非正規で、みんな自分が「雇い止め」されないか、毎年おびえている。仕事を探す人と向き合い、解決策を生み出せるようになった。コロナ禍でこれからさらに増える失業者を励まし、支えたいと思う。でも、採用基準がはっきりせず、相談員同士が疑心暗鬼になって、精神的に追い込まれるケースも出ているという。「ハローワークは国民が安心して働けるように国が設置した機関です。不正な企業を指導することもあるのに、それを支える職員はつらい立場なんです」

 ■非正規公務員、見劣りする待遇

 財政難をうけた行政改革のかけ声のもと、公務員の数は全体的に抑えられてきた。一方で行政に求められるサービスは多様化している。現場を支えるために採用されたのが非正規の公務員だ。総務省の調査では、2016年には地方公務員のおよそ5人に1人まで増えている。

 新潟県の30代男性は、2カ所の県立高校で国語を教えている。もともと会社員をしていた。教員になったのは3年前で、今年3月までは常勤講師という扱いだった。部活の顧問や入試の採点もする。正規の教員との違いはクラス担任にならないことくらいだった。

 それが、4月以降は非常勤になり、月給制から授業した分だけ賃金が支払われるように変わった。緊急事態宣言が4月7日に出されると、翌週の15日から休校になった。すると、学校側から4月分の賃金は発生しないと連絡があった。男性は「絶望的な気分になった」と振り返る。

 労働組合の働きかけなどもあり、教育委員会は約1週間後、年度初めに予定されていた授業分の賃金を支払うよう各学校に通知した。賃金は振り込まれたが、釈然としない気持ちが残った。男性は「非常勤講師は学校にとって使い勝手がいい存在だ。立場が弱くて声を上げられない」と話す。

 公務員は「親方日の丸」で高い給料をもらっていると見られがちだが、非正規にはあてはまらない。公務員制度は正規職員を前提にできており、「法の谷間」に置かれた非正規は待遇などが大きく見劣りしていた。

 「会計年度任用職員」という新制度が今年4月にスタートし、非正規にも賞与などの手当が払えることが明確になった。それでも、不安定な立場は変わらない。公務員は民間のような雇用契約ではなく、非正規労働者を保護する枠組みの外にいる。通算5年を超えれば無期雇用へ転換を要求できる「5年ルール」も適用されない。

 ■公共サービス、「崩壊寸前」危機

 労組関係者や弁護士らでつくるNPO法人「官製ワーキングプア研究会」は5月、コロナ禍の影響をウェブで調べた。回答者は235人で、女性が8割、非正規は7割を占めた。平均勤続年数は10・6年で、感染の不安や対策の不十分さを感じている人は全体の8割に達した。

 調査を分析した上林陽治・地方自治総合研究所研究員は、家庭内暴力(DV)の相談員や生活保護の申請窓口など「対面支援」の現場で非正規が多いと指摘する。年収は200万円ほどで、感染のリスクもあるなか働いているという。上林研究員は「低い待遇で働く非正規の公務員がいないと、DVの被害者や家や仕事を失った人などに支援が届かなくなる。公共サービスは崩壊寸前と言える」と危機感を示す。

 コロナ禍は公共サービスの機能が低下していることもあらわにした。国が困っている人や企業にお金を配ろうとしても民間企業の力を借りないとできない。いろいろな支援事業が巨額の税金で民間委託され、その現場を支えるのは非正規労働者だ。

 西日本の30代女性は5月上旬、派遣の求人を集めたウェブサイトで「官公庁案件」と書かれたものを見つけた。中身は詳しく記されていなかったが、大手派遣会社が出していたので大丈夫だろうと申しこんだ。

 すぐに派遣会社から電話があり、職歴などを聞かれた。1週間ほどで採用の通知が届いた。時給は1600円弱で、勤務先は市役所。仕事は1人あたり10万円を支給する「特別定額給付金」の審査だ。現場のリーダー役をまかされた。

 市役所のフロアに100人超のスタッフが集められた。ほかに自分と同じリーダーが十数人と、派遣会社の社員も数人いた。オンラインで届いた申請データを印刷し、チェックする。リーダーは派遣会社の社員の指示を受けてスタッフに作業を割り振る。座って仕事をするスタッフの合間をぬって動き回る。フロアには人がごった返し、「3密の状態だった」と女性はいう。

 派遣会社の社員の指示がバラバラで、混乱に拍車をかけた。市民の暮らしを支えると思って働いたが、「この時給でこんなきつい仕事はどう考えても割に合わない」とやりきれなさが募った。

 非正規でも民間の派遣社員でも、公共サービスの担い手であることに変わりはない。その人たちが不安定で処遇が低いままで、この先、安定した公共サービスを維持できるのだろうか。

 

こんなニュースも