(社説)最長政権 突然の幕へ 「安倍政治」の弊害 清算の時

社説

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 首相在任7年8カ月、「安倍1強」と言われた長期政権の突然の幕切れである。この間、深く傷つけられた日本の民主主義を立て直す一歩としなければならない。

 安倍首相がきのう、持病の潰瘍(かいよう)性大腸炎が再発し、国民の負託に自信をもって応えられる状態でなくなったとして辞意を表明した。治療を続けながら職務を続ける道は選ばず、秋冬に備えた包括的なコロナ対策を自らの手でとりまとめたことを区切りとした。首相の重責を踏まえた重い決断である。健康の回復に向け、療養に努めてほしい。

 ■行き詰まりは明らか

 退陣の直接の理由は、わずか1年で政権投げ出しと批判された第1次政権の時と同じ持病である。しかし、長期政権のおごりや緩みから、政治的にも、政策的にも行き詰まり、民心が離れつつあったのも事実である。

 先の通常国会では、「桜を見る会」の私物化が厳しく追及された。公文書改ざんを強いられて自ら命を絶った近畿財務局職員の手記が明らかになったことで、森友問題も再燃した。

 河井克行前法相と妻の案里参院議員による大規模な買収事件が摘発され、選挙戦に異例のてこ入れをした政権の責任も問われている。検察官の独立性・中立性を脅かすと指摘された検察庁法改正案は、世論の強い反対で廃案に追い込まれた。

 それに加え、コロナ禍への対応である。首相が旗を振っても広がらないPCR検査、世論と乖離(かいり)したアベノマスクの配布、感染が再燃するなかでの「Go To トラベル」の見切り発車……。多くの国民の目に、政権の対応は後手後手、迷走と映った。

 朝日新聞の先月の世論調査では、首相が感染拡大の防止に指導力を「発揮している」と答えた人は24%で、「発揮していない」が66%に達した。内閣支持も33%と低迷。支持率の高さを力の源泉のひとつとしてきた政権にとって、袋小路に追い込まれていたといってもいい。

 ■安定基盤を生かせず

 第2次安倍政権は、民主党政権を含め、1年前後の短命首相が6代続いた後に誕生した。衆参のねじれを解消し、政治の安定を回復したことが、世論に好意的に受け止められたことは間違いあるまい。

 アベノミクスのもとで株高が進み、企業収益や雇用の改善につながったことも事実である。ただ、賃金は伸び悩み、国民が広く恩恵を実感できる状況ではない。内閣府は先月、12年12月に始まった景気拡大が18年10月に終わり、翌月から後退局面に入ったと認めた。コロナ禍の影響もあり、良好な経済という政権の金看板も色あせつつある。

 衆参の国政選挙では6連勝を果たした。しかし、その政治基盤を活用して、社会保障改革や少子高齢化対策などの難題に道筋をつけるまでには至らなかった。むしろ、巨大与党の「数の力」を頼んで、集団的自衛権行使に一部道を開く安全保障法制特定秘密保護法、「共謀罪」法など、世論の賛否が割れた法律を強引に成立させた。

 外交・安全保障分野では、首脳間の関係を深めるのに長期政権が役立った側面はあるが、「戦後日本外交の総決算」をスローガンに取り組んだ北方領土交渉は暗礁に乗り上げ、拉致問題も前進はみられなかった。

 事実上、次の首相となる自民党の後継総裁選出の手続きは、二階俊博幹事長に一任された。自民党の党則では、特に緊急を要するときは、両院議員総会で選任できるとされており、執行部はこの方式を採用する方針だという。

 コロナ対応に切れ目があってはならないが、そうならないよう首相が当面の対策をまとめたのではないか。「政治空白」を避けるという理由なら成り立たない。全国の党員・党友が参加し、国民の目にもみえる総裁選を実施すべきだ。

 ■「分断」「忖度」克服を

 今回の総裁選では、安倍政権の政策的な評価のみならず、その政治手法、政治姿勢がもたらした弊害もまた厳しく問われねばならない。

 野党やその支持者など、考え方の異なるものを攻撃し、自らに近いものは優遇する「敵」「味方」の分断。政策決定においては、内閣に人事権を握られた官僚の忖度(そんたく)がはびこり、財務省の公文書改ざんという、民主主義の土台を崩す前代未聞の事態を招いたことを忘れるわけにはいかない。

 懸念されるのは、安倍1強が長く続く中、自民党内で闊達(かったつ)な論議がすっかり失われたことだ。首相と石破茂元幹事長の一騎打ちとなった一昨年の自民党総裁選では、大半の派閥が勝ち馬である首相に雪崩をうった。

 最大派閥出身の首相の影響力に遠慮して、安倍政権の功罪がしっかり検証されず、政策論争そっちのけで、数合わせに走るようなことがあってはならない。国民の信頼を取り戻せるか、自民党にとってまさに正念場である。

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