(社説)景気後退 判断遅れ 政府は反省を

社説

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 内閣府の「景気動向指数研究会」が先日、2012年12月からの景気の拡張期は18年10月に「山」(ピーク)を付けたと認定した。その後は景気後退局面に入っていたことになる。

 5年11カ月に及んだ今回の拡張期間は、小泉政権下で始まった02年2月~08年2月の拡張期より2カ月短い。昨年1月に茂木敏充経済再生相(当時)が景気回復期間は「戦後最長になったとみられる」と述べたが、結果的に幻に終わった。

 研究会座長の吉川洋・立正大教授によれば「今回の山の決定にコロナは無関係」という。後退局面入りは今年初めごろまでのデータで確認できるからだ。つまり日本経済はコロナ禍による激しい下押しを受ける前に、すでに1年半近く景気後退を続けていた可能性が高い。

 しかし政府が月例経済報告の基調判断から「回復」の表現を削ったのは、コロナ禍による影響が顕在化し始めた今年3月だった。現在の景気の判定手法で「山」や「谷」の認定まで時間がかかるのはやむをえない。だが、月次の指数でみても昨年初めごろから変調は明らかで、景気の息切れは見てとれた。その後も「回復」と言い続けたことには疑問が大きい。

 ところが、西村康稔経済再生相は会見で、政府の景気判断は「間違っていなかったと今も確信している」と述べた。指数に基づく判断は、経済のサービス産業化を捉えきれていないとも主張し、指数や判定手法の見直しの検討に言及した。

 近年の景気循環はメリハリに乏しく、判断は微妙になりがちだ。今回の拡張期をならしてみると、年間の経済成長率は1%をわずかに上回る程度で、14年度以降、中だるみ的な時期もあった。指数や手法の改善や、景気循環の意味合いの捉え方についての議論は必要であり、実際に行われてもいる。

 ただ、今の物差しを否定するだけでは、恣意(しい)的な判断との疑いを招く。とりわけ「アベノミクス」を金看板にしてきた現政権にとり、景気判断が妥当かどうかは存在意義にかかわる。

 確かに、企業収益や雇用は最近まで比較的堅調だった。だが、働き手の賃金や家計の可処分所得、消費への波及の弱さは久しく指摘されていた。にもかかわらず、「回復」の面を過度に強調し続けた姿勢は、経済政策で何を目指すかという点でも、バランスを失していたのではないか。

 コロナ禍による経済の落ち込みは、スピード、振れ幅とも大きい。現状認識の精度を上げるためにも、視点の偏りを反省し、改めて様々なデータに目を光らせるべきだ。

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