(社説)コロナの拡大 ちぐはぐ対応 深まる溝

社説

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 東京都ではこの5日間で約1千人の新型コロナの感染者が確認された。他の都市部でも各地で拡大の兆しが見られる。

 検査を幅広く行っていることが数字の増加になって表れたというが、感染者は高リスクの中高年世代にも広がる。余裕があるとされる医療体制も、たしかに重症者は少ないものの、入院患者は着実に増えている。

 感染の経路や場所も多岐にわたっており、接待を伴う店への警戒を中心にすえた従来の対応は、事態の理解を誤らせる。正確な分析と説明が必要だ。

 人々を不安にさせる大きな要因は、開示される情報が質・量ともに不十分なことだ。

 例えば会食や職場が原因だというだけで、具体的にどんな状況で感染したのかは明らかにされない。半数近くが「経路不明」と分類されるが、どう不明なのか、その後調査は進んでいるのかなどのフォローもない。

 これでは何にどう気をつければいいのかわからず、予防に役立てることもできない。リスクを社会全体で正しく認識するには、当局が必要な情報をすみやかに公表し、疑問に丁寧に答えることが不可欠だ。「『新しい日常』を徹底してほしい」といった呼びかけをただ繰り返しても、それ以上の対策はなく、また取る気もないのだろうという受けとめが広がるだけだ。

 責任ある立場の人の発言が食い違ったり、大きくブレたりするのも不信を募らせる。

 都内から他県への移動の自粛要請をめぐり、東京都の小池百合子知事と西村康稔担当相が逆のことを口にする。菅官房長官が「(コロナは)圧倒的に東京問題」と言えば、知事は「国の問題だ」とやり返す。

 必要なのは、国と都が連携して、保健所のてこ入れや検査態勢のさらなる拡充に取り組むことであり、責任のなすりつけ合いではない。安倍首相から明確なメッセージが打ち出されないのも混迷に拍車をかけている。

 驚くのは、感染拡大のこの状況下で、政府が「Go To キャンペーン」の観光分野の前倒し実施を決めたことだ。事業そのものへの疑念もくすぶるなか、いま人の動きを活発化させようという意図は何なのか。

 赤羽一嘉国土交通相は「できるだけ早くという要望が強く寄せられた」と述べた。社会経済活動はむろん大切だが、さらなる感染拡大を招けば、かえって経済の傷を深める。大規模イベントの制限解除も同様だ。

 既定の方針に縛られず、状況を日々分析し、柔軟に対応する。未知のことが多いコロナ問題では、そんな姿勢が通常以上に求められる。政治が硬直し、思考停止に陥ってはいけない。

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