(社説)米軍基地汚染 平時からの立ち入りを

社説

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 政府は「成果」を強調するが、むしろ多くの課題が浮かび上がったとみるべきだ。

 沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場から発がん性が疑われる化学物質を含む泡消火剤が大量に流出した事故で、国、県、市による基地への立ち入り調査が先月で一区切りついた。汚染された水や土壌を採取し、それぞれが分析を進めている。

 日米地位協定に環境調査に関する規定はない。県などの要望を踏まえて5年前に両政府が交わした「環境補足協定」に基づき、事故を受けて初めて実施された立ち入りだった。だが県が求めた調査のすべてが認められたわけではなく、玉城デニー知事はさらなる必要性を訴えている。県民の健康を守る責務を負う首長として当然だ。

 補足協定に伴う日米合意では、日本側からの申請に米軍は「妥当な考慮を払う」とされているだけだ。調査を認めるか否かは米軍の裁量次第で、サンプルの採取活動もその枠内に限られる。これで十分な調べができるとはとても思えない。

 今回の事故に限らない。沖縄では米軍基地周辺のわき水などから同種の化学物質が検出されている。県は16年以降、定期調査を続けるとともに、基地内への立ち入りを再三申し入れているが実現していない。補足協定に基づく調査は「米軍から事故の通報があった場合」と「基地の返還前」に限られ、これが壁になっている。

 補足協定の上にある日米地位協定ともども、すみやかな見直しが求められる。住民の健康に関わる問題が起きているのに、米軍の許可がなければ日本側は手をこまぬいているしかない現状は明らかにおかしい。

 ドイツも地位協定を結んでいるが、そこでは政府や地元当局による米軍基地への立ち入りが認められ、緊急時には事前通告も不要とされる。少なくとも同様の取り決めにするべきだ。

 もう一つ、早急に詰めねばならない話がある。今回流出した泡消火剤の除去には地元の消防があたった。基地外での作業に日米のどちらが責任を負うか、明確な規定はない。危険を伴う場合も多く、様々な事態を想定して備えておく必要がある。

 沖縄では返還後の基地から有害物質が見つかり、その除去に時間がかかって再開発の構想が狂うことがしばしばある。

 フェンスの向こうに、どんな物質が、どんな状態で保管されているのか。環境を害していないか。日頃チェックできる仕組みが不可欠で、それには日米地位協定の改定が避けられない。

 沖縄だけの問題ではない。基地周辺の住民の不安に政府がどう向き合うかが問われている。

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