(社説)滞る裁判 使命に応える工夫を

社説

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 新型コロナ禍の影響は司法の分野にも及び、各地で裁判の延期が相次ぐ。緊急事態宣言が解除されてもウイルスと共存する日々は続く。それを前提に、市民の権利の実現や人権の擁護に支障のないよう、態勢の整備を急がなければならない。

 なかでも厳しい運営を強いられている一つが裁判員裁判だ。3月ごろから期日の取り消しが増え、宣言が出てからはほぼ停止状態になった。途中で裁判員が辞任してしまい、補充できないまま審理を最初からやり直すことになった。新しい日程の見込みがなかなか立たない――。そんな例も出ている。

 非常時でやむを得ない面があるとはいえ、裁判が遅れると、被告の勾留が長引いたり、証人の記憶が薄れて真相の解明が遠のいたりする弊害が生じる。手をこまぬいてはいられない。

 裁判員制度が始まって11年になる。候補者の中から裁判員を選ぶ手続き、法廷での審理、裁判官を交えての評議。いずれも複数の人が一定の時間、閉ざされた空間で言葉をかわす「密」の営みだ。憲法が裁判の公開を定めていることに加え、事件関係者のプライバシーや評議の秘密を守る必要から、オンライン化には高い壁がある。

 それでも、候補者が集合する時刻や場所を分散して人の集中を避ける、裁判所内の複数の部屋をつないでウェブ会議システムで評議を行う、といった対策は可能だろう。先週、裁判員裁判を再開した青森地裁は、裁判員の間に透明なアクリル板を立て、傍聴人の間隔も空ける工夫をした。それぞれの取り組みや逆にうまくいかなかった試みを裁判所全体で共有し、より良い方策を探ってほしい。

 最高裁は4年前、感染症の流行を想定した業務継続計画(BCP)をまとめた。

 政府の新型インフルエンザ対策に沿って「8週間で国民の25%が順次罹患(りかん)、職員の4割が欠勤」との想定で、そうした状況下でも緊急性が高く業務の継続が求められるものとして、パートナーからの暴力(DV)の被害者を保護する手続き、逮捕・勾留・保釈の判断、民事裁判での財産の一時的な差し押さえなどを挙げている。

 新型コロナの毒性はこの想定ほどではないとされるが、一方で、症状の出ない感染者が多くいるなど厄介な性質をもつ。

 今後、経済活動の制約の影響が、解雇、給料不払い、店舗やオフィスの賃貸借トラブル、倒産など様々な形をとって、裁判所に持ちこまれることが予想される。ウイルスに応じた適切な感染対策を講じつつ、適正・迅速な司法サービスに努め、社会の要請に応えてもらいたい。

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