(社説)米大統領選 危機が問う大国の責任

社説

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 米国主導で形づくられてきた大戦後の国際秩序が、さらなる混迷に向かうのか、それとも、復元力が働くのか。今年の米大統領選挙は、その大きな分岐点になるだろう。

 共和党の現職トランプ氏に対し、民主党バイデン前副大統領が挑む構図が固まった。11月に予定される本選挙に向けて、両陣営は動き始める。

 何より問われるのは、「米国第一」を掲げるトランプ氏が、国際社会での米国の信頼性と指導力をどう変えたかであろう。

 トランプ氏は、グローバル化への拒絶を公言し、多国間協調の枠組みを次々に否定してきた。これに対し、バイデン氏はオバマ前政権下で外交の一線に立った経験を土台に、国際協調路線への復帰を唱えている。

 かつて世界秩序の重しだった米国の存在感が、トランプ政権下で凋落(ちょうらく)したのは間違いない。国境を越える感染症の危機に直面しても、米国は国際社会を束ねる指導力を発揮できないどころか、中国や国際機関への非難ばかりを強めている。

 こんな時、バイデン氏なら米国の役割をどう果たすのか。同盟関係の重視を持論とする中、米国の利益と他国との連携をどう両立させるのか。外交通を証明する論陣を張ってほしい。

 米国内をみれば、改めて表出したのが格差の問題だ。

 トランプ現象の背景には、グローバル化による格差拡大への不満があった。トランプ氏は特に白人労働者層を意識して、貿易で保護主義に走ったが、それが中間層の長期的な底上げにつながらないのは明らかだ。

 一方のバイデン氏も、格差是正をめざした前政権下でナンバー2を8年間務めながら、成功を収めたとは言いがたい。

 民主党の予備選を最後まで争ったサンダース上院議員は国民皆保険制度を唱え、人気を博した。コロナ禍で制度への支持はさらに増えた、との世論調査もある。誰が次の大統領になるにせよ、国民が求める社会的公正の実現は喫緊の課題だ。

 格差の是正や、社会保障制度の改善、移民や外国人居住者の受け入れ策などは、いずれも日本を含む先進国が頭を悩ませる問題である。競争か、平等かの価値観に揺れる米国の論争を、各国は真剣に見つめている。

 コロナ危機の渦中で進む選挙戦は、異例の展開になる。小規模の集いですら、再開できる見通しは立っていない。その分、論戦の質が問われるだろう。

 バイデン氏が公約した女性副大統領候補を含め、多様性がどう反映されるかも注目点だ。逆境にめげず、自らの指導者を厳しく吟味し選ぶ米国流民主主義の強靱(きょうじん)さを見せてもらいたい。

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