(社説)感染症と社会 誤情報に踊らされずに

社説

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 新型コロナウイルスの感染拡大につれ、デマや誤った情報が社会に混乱を引き起こしている。トイレットペーパーやティッシュペーパーなどが、各地の店頭で品切れとなったのがその典型だ。

 「中国から輸入されなくなる」「マスクと原料が同じ」といった、根拠のない噂(うわさ)がSNSなどで広がった。実際は、ほとんどが国産で、在庫も十分ある。しかし、デマかもしれないとわかっていても、現実に品薄となれば、買いだめに走る消費者心理も無理はない。

 社会不安は、小さな発火点から、瞬く間に全国に広がることもある。飛び交う情報をうのみにせず、根拠は何か、発信源は確かか、真偽を見極め、冷静な対応を心がけたい。

 今回のウイルスは「新型」ゆえに不明な点も多く、不安が増幅されやすい。その隙をつくように、感染者や感染経路、予防法、治療法、はては陰謀論に至るまで、不確かな情報がまことしやかに流される。

 世界保健機関(WHO)は、ウイルスの世界的な大流行(パンデミック)とともに、デマや誤情報が急速に拡散する「インフォデミック」への警戒を呼びかけた。02~03年の重症急性呼吸器症候群SARS)の時より、グローバル化は一層進み、情報は一瞬にして国境を越える時代である。

 SNSやインターネットの拡大は、多くの情報を基に正しい判断を導く助けとなる一方で、真贋(しんがん)を見抜く困難も伴う。相互依存が格段に進んだ世界で、ウイルスも誤情報も、その伝播(でんぱ)を完全に止めるのは難しい。

 そんななか、政府に求められるのは、できる限り正しい情報を、迅速に、わかりやすく、根拠を示して伝えることだ。

 いくら発信を重ねても、その裏付けがあいまいであっては、かえって人びとの不信を招いたり、不合理な行動を誘発したりしかねない。

 感染症をはじめ、各分野の専門家の知見に、政府は耳を傾けねばならない。そして、経済、社会への影響を多角的に検討したうえで対策を打ち、国民に丁寧に説明する責務がある。

 歴史をひもとけば、大地震などで社会に不安が広がった際、特定の民族や社会の少数派などを対象にした悪質なデマが流布されてきた。先が見えない混迷の中で、人は容易に偏見にとらわれる。そのことを自覚し、的確な行動につなげたい。

 新型ウイルスの終息時期は見通せず、社会全体にとって難しい局面がしばらく続くだろう。事実に基づき、正確な情報を発信する。メディアの重い役割も肝に銘じたい。

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