(社説)新型肺炎対策 不安拭えぬ首相の説明

社説

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 国民の不安を拭い、納得を得るためには、説明も対策もまだまだ不十分だ。自らの政治決断だという以上、安倍首相には先頭にたって、きめ細かな対応に努めてもらわねばならない。

 首相はきのうの参院予算委員会の冒頭、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、全国の小中高校などに求めた一斉休校などの措置を説明し、与野党に協力を求めた。

 政府が決めた基本方針では、臨時休校の判断は都道府県に任されていた。首相はそのわずか2日後、一転して一斉休校の要請に踏み切った。平日の準備期間は1日しかなく、学校関係者や保護者、その勤務先まで、困惑と混乱が広がった。

 国民生活にこれほど大きな影響を与える決定である。自身の口から直接、説明すべきだとの声に押されるように、首相は先週末、ようやく記者会見を開いた。感染拡大か収束か、この1、2週間が「瀬戸際」だと訴えたが、感染者が確認されていない県まで一律に対応する根拠は具体的に示されなかった。

 首相は予算委でも「専門家の意見をうかがったものではない」と、科学的な知見に基づくものではないと認めた。幼稚園や保育園、学童保育は続けるという判断も同様だ。首相は小さな子どもを家で1人にはできないと理解を求めたが、「学校より感染リスクが低いのか」という野党議員の質問に、政府の専門家会議の座長は「リスクの比較はしていない」と答えた。

 記者会見にしろ、国会答弁にしろ、首相は準備された説明を繰り返す場面が多く、自らの言葉で国民の不安に丁寧に向き合おうという姿勢はうかがえない。遅ればせながらの会見も、時間はわずか35分。その後に特段の公務が控えていたわけでもないのに、質問を打ち切って帰宅した。

 首相が大規模イベントの開催自粛を呼びかけた当日、地元の仙台市内で政治資金パーティーを開いた秋葉賢也首相補佐官に対しても、「注意」をしただけで、野党の罷免(ひめん)要求は一顧だにしなかった。国民に不便を強いるなら、自らやその周辺は「隗(かい)より始めよ」ではないのか。

 9年前の東日本大震災のとき、当時野党だった自民党民主党政権に協力し、活発な与野党協議を経て、多くの議員立法を成立させた。

 国民のいのちと暮らしを守るために与野党が協力するのは当然だ。その前提は、政権与党の側が野党の指摘や提案に虚心に耳を傾けることだろう。与野党を超えて政治の責任を果たせるか。これまでの安倍政権に欠けていた謙虚さを発揮できるかにかかっている。

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