(社説)香港の混乱 武力では解決できない

社説

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 香港から伝えられる痛ましい映像を、驚きをもって見る日々が続いている。

 若者ともみ合うなかで突然、銃を発砲する警察官。倒れた体から流れる赤い血……。非武装の市民に向けて警察が実弾を撃つという異常な行為がおととい、再び繰り返された。

 先週には、デモ参加中にビルのなかで転落した大学生が死亡した。逃亡犯条例の改正に端を発した香港の抗議デモが大規模化してから約5カ月。香港警察のいまの強硬な行動は明らかに限度を超えている。

 中国では、民衆の抗議活動に対する当局の過酷な弾圧は少なくない。ほかの地域と違い、表現の自由が認められているはずの香港でも、次第に当局の抑制が利かなくなっているのではないかと危惧せざるをえない。

 香港警察との衝突で、拘束者は3千人を超え、負傷者も多数にのぼっている。中国政府と香港政府は即刻、行きすぎた行動を改めるべきである。

 林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は「暴力では何も解決しない」と述べ、デモによる破壊行為や交通妨害などを非難した。しかし、その言葉はそのまま香港政府にも向いていることに気づくべきだ。若者らを過激化させているのは、当局のかたくなさにほかならない。

 強圧的な姿勢は、今月24日に予定される区議会選挙に向けても示されている。一部の民主活動家の立候補を認めない。立法会の民主派議員を逮捕・訴追しようとする。そんな動きが相次いでいる。

 市民による平和的な意見表明の機会をつぶしておいて、抗議活動だけに一方的に混乱の責任を求めるのは不公正だ。

 いまやデモの若者らと警察の双方に憎悪が広がっている。いま香港政府がやるべきは、敵対心をあおるのではなく、平和的な対話の枠組みを築く努力ではないのか。要求に耳を傾け、粘り強く対話を重ねること以外に事態を打開する道はない。

 習近平(シーチンピン)国家主席は先週、林鄭氏と上海で会い、「暴力活動を法に従って止め、処罰する」よう求めた。制圧の指示と受け止められているが、このままでは自由な香港は壊れてしまう。

 中国政府は自らが公言してきた「一国二制度」の原則に立ち戻り、香港の自治を尊重しなければならない。

 区議会選挙は、香港市民が一人一票の形で政治的な意思表明ができる貴重な機会だ。混迷が深まるいまだからこそ、じかに民意を問う意義は大きい。

 香港政府はこの選挙を公正に実施したうえで、市民が求める民主化の改革を真剣に検討すべきである。

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